【本編後IF/ミスミ】それはたった一度の特別な

※時間軸は本編数年後。設定がちょっとIF。ミスミとの一幕。三人称。






 「誕生日のお祝いがほしいんですが」と切り出したら、彼女は理由も聞かずにあっさりと「別にいいけど」と答えたので、ミスミはうっかり続く言葉を失った。

 説得のための理由は用意してあって、言い募る心積もりもしていたから、なんだか逆に戸惑ってしまったのだ。


「なんで言い出した側が戸惑ってんの」

「……だって、今までは個別にきちんとしたお祝いはしないということにしていたでしょう」

「そうだね、あんたたちがこっちを気遣って取り決めてくれたやつね。だから口頭でのお祝いだけだったわけだけど」


 彼女は「庶民的なお祝いの発想とレベルでいいならプレゼントくらいするけど」というスタンスだったけれど、自分たちは「誕生日おめでとう」の一言だけで嬉しかったし、あまり彼女に負担になるといけないということで、そういうことにしていた。

 それに、彼女が自分たちのために時間を割いてくれるなら、金銭的負担を負わせてしまう可能性の高いプレゼントより、プレゼントを考えてもらう時間分でも一緒にいる時間が長くなった方が嬉しかったというのもある。

 だけど今年は、全員が二十歳を迎える年だ。成人という節目であるわけだし、今回くらいは彼女の負担にならない範囲でお祝いをねだってみようという話になった。なので、こうして最初に誕生日を迎えるミスミから切り出してみたわけだったのだが。


 理由を説明すれば承諾はしてくれるだろうと思っていたけれど、想定と違う流れにどう話をしようか迷うミスミに、彼女は当たり前のように続ける。


「今年が成人だからとかそんな理由でしょ。どうせ負担にならない程度で、とかの線引きは決めてるんだろうし、そんな無茶なことも言われないだろうってくらいの信頼はしてるし、別にいいよ。……で、あんたは何が欲しいの?」


 それがあんまりにも気負いがなくて、彼女はいつだってそうだけれど、それだけの関係性を今も続けられているということをふいに実感して、なんだか泣きたいような笑いたいような気持ちになりながら、ミスミは自分の願いを告げた。


「あなたと、一番最初にお酒を飲む権利がほしいです」

「……そんなんでいいの?」

「それがいいんです」

「まあ、あんたがそれがいいっていうならいいけど……変なもの欲しがるね」


 不思議そうな彼女に、「あなたの『一番』がひとつくらい欲しかったので」と言ったらどうなるかと考えたけれど、すごく微妙な顔をされそうだなというのが容易に想像できて、ミスミはひっそりと苦笑した。

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