【本編おまけ】彼らと彼女の後日談・1





「あんたの家に来るとティータイム=演奏を聴く時間になりがちなのは慣れたけど、なんでいつもピアノなの? 他のもコンサートやらなんやらで演奏できるレベルだって聞いてるけど」


「そういう情報を流すのは社ですね。別に、深い意味は……いや、あると言えばありますね」


「深い意味あったんだ? この家完全防音だから、外に聞こえる音の問題ではないだろうと思ってたけど」


「たぶん、貴方は忘れてると思いますけど。……昔、貴方が言ったんですよ。『ピアノが一番好きかなぁ』って」


「……言ったっけ? どういう流れで?」


「演奏するのを聴いてみたいと貴方が言い出して、どれがいいかと家にあって演奏できる楽器をつらつら並べたら、そう言ったんです」


「……ああ、あのときか。ド素人にもかろうじて音の鳴る原理がわかってすごさが多少とも感じやすそうなの、とかって感じでピアノって答えたんだけど。……あんたがピアノメインに移行したの、まさかそれが理由とか言わないよな?」


「それも社からですね? 安心してください。それだけが理由じゃありませんよ」


「『それだけが』って、理由の一部にはあるみたいな不穏な言い回しやめろ。……いやあんたの人生であんたが選んだことなんだから私が口出すものでもないけど」


「そんなさみしいこと言わないでください。私はあなたが私のことを気にしてくれるの、嬉しいんですから」


「――あんたちょっと何か吹っ切れた?」


「人間は変わるものですよ。少しのきっかけでもね」


「うん、まあ、深くは突っ込まないでおく。……なんか、前より息がしやすそうに見えるからいいことなんだろうし」


「そうですね。少し、肩の力を抜く方法を覚えたというか、そんなに肩に力を入れなくてもいいことに気付いたというか……、まあそういう感じです」


「それは重畳。あんたどっちかっていうと抱え込んで自分の中でぐるぐる考えてめんどくさいことになるタイプだったし、それが改善されるきっかけになるといいな」


「自覚してますけどめんどくさいと言われるとちょっと傷つきます」


「あんた自体がめんどくさいって言ったわけじゃないんだけど」


「それでもちょっと。……でも、まあ、そういうふうに思っていても、見捨てないでくれるんですよね?」


「……ある意味開き直ったな? ――見捨てないから、成長しろよ」


「はい。あなたがいてくれるなら」


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