彼女と彼女は準備中。
「自己紹介も終わったところで、これからどうするかなんだけど」
「うん」
「この部屋とか縛られてなかったこととか考えるに、相手はわりと私たちを軽視してるみたいだから、穴はあると思うんだよね」
「縛られてなかった……はわかるけど、この部屋?」
「うん。ざっと見た限りだけど、監視できるようなものを置いてないから」
「監視カメラとか、盗聴器ってこと、だよね」
「そう。見えないところに仕込んでる可能性はほぼゼロだと思う。どう見ても高級ホテルだし。この誘拐にそこまで手間暇かけるとは思えないし」
「そういうもの?」
「私が飛び入りできたところからして、結構杜撰だと思うよ。攫うにしたってもうちょっとやりようあるはずだし。少なくとも、こういうのに慣れた人間が主導してるわけじゃないはず」
「そっか……」
「携帯は流石に取り上げられてたし、荷物もどっかにやられたみたいだけど、それだけみたいだし。まあ、こっちを無力な一般人と侮ってくれてるんだろうけど」
「……ええと、違うの?」
「どうかな。平々凡々な一般人の自覚はあるけど、――力を持たないからこそやれるだけをやっておくものだよ。備えあれば憂いなし、ってね」
「備え……」
「劇的に状況を変えるような力はないんだから、可能な限りの手を打っておくくらいはするよ。そういうことを想定してないみたいだから、お相手方は一般人には何もできないだろうって高を括ってるんだろうけど、一般人を舐めすぎだよね」
「何か、あるの?」
「さすがに連絡手段はないけどね。多分、異常事態なことは知り合いから伝わってるだろうし、現在地の特定もできてるんじゃないかな。無事なことも含めて、あいつらには伝わってると思うよ」
「す、すごい、ね……?」
「いつかこういうことになるだろうっていうのはわかってたから。――と、そうだった」
「?」
「連絡手段じゃないけど、ちょっと近いものがあったの忘れるところだった」
「……お守り?」
「――に見える……なんだろ。盗聴器でいいのかな」
「えっ」
「ただしこっちからスイッチ入れないと動かないけど。発信しかできないトランシーバーみたいなものかな……でもトランシーバーって送信と受信ができる物のことだから、片方だけしかできないなら違うものだね」
「送信と受信……あ、」
「? どうしたの?」
「あの、多分、それっぽいもの、持ってま、……持ってるかも」
「え」
「『なんかあったとき役に立つかもよ』って、渡されたのがあって」
「……。誰に?」
「結構有名な人みたいだから、知ってるかな。三笠さんっていう……」
「……『三笠樹』?」
「知り合い?」
「……知り合い、ではない、かな。顔見知りくらい。――じゃあ、三笠さんとは連絡取れるってこと?」
「たぶん……。ええと、待ってね。確かここに入れたままだったはず……」
「外と連絡取れる手段があるのは助かるけど、――あんまり怪しいもの受け取っちゃダメだよ?」
「あ、怪しくないよ! 大丈夫だよ! 子どもじゃないんだし!」
「いや、なんかあなた警戒心足りなさそうだから……」
「警戒心くらいあるよ!?」
「警戒心ある人はそんな得体の知れないものは受け取らないと思う」
「……そ、それは……」
「まあどうせ三笠さんに丸め込まれて受け取っちゃったんだと思うけど。でも人が好すぎるのも考えものだからね? 変なの寄ってくることにもなりかねな――いや、もうなってるか……。ごめんね、馬鹿どもが迷惑かけて」
「ば、馬鹿どもって……幼馴染なんだよね?」
「事実だから」
「そんなきっぱり……」
「まあその辺の話はまた追々。それが三笠さんに渡されたっていう?」
「あ、うん」
「見た目、ちょっとオシャレなストラップにしか見えないところが、なんというか……」
「絶対、これ高いよね……。壊したらどうしようってあんまり触れなくて」
「無駄に技術注がれてそうな気はするけど、気にするところそこなの? あっちから押し付けてきたんだからそんなの気にしなくていいと思うよ」
「そうかなぁ……」
「そうそう。とりあえず連絡とってみてくれる? こういうの渡したってことは、ある程度助けになるつもりがあるってことだろうし、せっかくだから働いてもらおう」
「う、うん。……できること、やれることはとりあえずやっておこう、ってことだよね」
「その通り」
「が、がんばるね……!」
「いやそんな気負わなくても。アレだったら事情説明とか私がやるよ?」
「ううん、わたしだって、少しでも役に立ちたいから……!」
「そう? じゃあお任せします。よろしくね?」
「了解、です!」
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