◆そして事態は転がり始める



「あーあ、これはついに、かなぁ……」



 定時連絡代わりのワンコールが鳴らなかった携帯電話を眺めながら、独り言ちる。

 協力を仰がれて(『妹ちゃん』からすると『不本意ながら取引して』になるのだろうが)、潜り込んだ学園はいろいろ規格外ではあったものの、概ね居心地はいい。

 が、彼がここに来たのは『妹ちゃん』のためであるのでそんなことは『動きやすい』か『動きにくい』かの違いでしかない。


 そのうち網にひっかかる愚か者は出てくるだろうと思っていたけれど、予想より早かった。馬鹿さ加減を見誤ったようだ。



「妹ちゃんのことだから、自分から飛び込んだ可能性もあるしなー」



 自分も狙われる対象であることを、冷静すぎるほどに見据えていた彼女のことだ。どちらにしろ同じことなら、と自ら渦中に飛び込むことだって充分に考えられる。

 ……そうして、そういう時にバックアップできると思われているから、自分が協力者に選ばれたのだということも、知っていた。

 その期待に応えるつもりがあるからこそ、自分は彼女が提示した取引に応じたのだから。


 ――そして、多少予定は狂ったと言えど、今が『その時』であることは明らかだった。



「まずは、繋ぎをとって――うーん、幼馴染くん達が先の方がいいかなー。でも役に立つか微妙だしなー。けど妹ちゃんのオーダーは幼馴染くん達のステップアップだしなー」



 先に根回ししてから幼馴染くん達でいいか、と結論付けて、彼は白衣を翻しその場を後にしたのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る