それはあえての嫌がらせ
「――なっ、なんでいるの香澄!?」
「何故と言われても。それくらい訊かなくてもわかりませんか馬鹿兄。……お茶のおかわりはいかがですか」
「ありがとう。じゃあお願いしようかな」
「しかも何和やかにお茶してるの。随分と強引な手を使って学園内に入ってきたわりにリラックスしすぎだと思うんだけど?」
「言っとくけど誘ったの私だから。香澄くんは付き合ってくれてるだけ」
「いえ、そんなふうに言わないでください。あなたと時間を共有できるのは純粋に嬉しいです」
「そんなこと素面で言えるところがユズとの血のつながりを感じさせるよね。お年頃のオトコノコとして恥ずかしいとか照れるとかないの」
「己の想いを率直に伝えることと伝えないことのメリットデメリットを考えた末に行動を起こしているだけです。そこで己の羞恥が勝てばもちろん口にはしません」
「いやそういうのを聞きたかったんじゃなくて……いや聞きたかったのか?」
「――相変わらず特定の一人にだけ砂吐くくらい甘いみたいだね、香澄くん」
「いえ、あなた方に比べればそれほどあからさまでもないでしょう」
「それ、嫌味?」
「そう思えたのならそうなんでしょう」
「……本当、相変わらずだね」
「褒め言葉として受け取っておきます。あなたも相変わらずですね、カンナさん」
「なんかこう、いろいろコワイんだけど……! 空気がピリピリしてるよね!?」
「まあいつものことでしょう、ユズ。というか、その空気を醸し出している片割れはあなたの弟でしょうに」
「だからコワイんだよっ! オレ香澄に頭上がんないし!」
「知ってるけど、そんな堂々と言うことじゃないよねそれ」
「だって事実だし……」
「あなたもあなたです、何悠長にお茶してるんですか。カンナがどれだけ取り乱したと思ってるんですか」
「……みんな、似たようなものだった、けど」
「――レンリ。何でそれをあえてここで言うんです?」
「隠すようなこと?」
「……。いえ、いいです。あなたとユズにそういう俗物っぽい部分はあまりないのを失念していました」
「……」
「取り乱すって何で。来たのが誰かってことくらいすぐわかったんじゃないの」
「――それは俺から説明します」
「まだこっちの話は終わってないよ」
「生産性のない嫌味の応酬に付き合う義理はありませんから」
「……いやさっきまでその応酬してたよね香澄くん」
「優先順位というものです。何事もなければある程度付き合うのもやぶさかではないですが」
「香澄くんの思考ってイマイチわからないな」
「わかられてしまうのも俺としては恥ずかしいので、これからもそうでありたいところです」
「え、そこは恥ずかしいの?」
「はい。……ということで話を戻しますが」
「あー、うん」
「皆さんが焦ったのは、俺がちょっとした工作をして入ってきたからでしょう」
「工作?」
「簡単に言うと、少し圧力をかけて口止めをしました」
「……口止め? なんで?」
「せっかくですから、少しばかり灸を据えるというか――思い知らせようということで」
「なんかいきなり物騒な言葉が。思い知らせるって何を」
「ここがいかに安全でないかを。ちなみにこれは我が家の総意です」
「え、オレ何も聞いてないけど!?」
「当事者に言うはずがないでしょう馬鹿兄。――あなたたちがまだまだ甘いということを、一度きっちり認識してもらうべきだということで意見がまとまったんです。そうでなければ家の権力を行使できるはずがないと思いませんか。跡取りでもないのに」
「いや香澄なら使えそう――」
「黙っててください馬鹿兄」
「ハイごめんなさい!」
「この学園はある意味ではカンナさんの力がもっとも及ぶ場ですが、外から圧力がかけられないわけではありません。中にいる人間ばかりに目を向けていると足をすくわれますよ、という忠告です」
「…………」
「……香澄くん。さっき『今日のところは引く』って言ってなかったっけ?」
「それはあなたに対しての話です。馬鹿兄含めた皆さんにはきっちり釘を刺してくるように言われているので」
「その笑顔が怖いんだけど。なんかイキイキしてない?」
「総代として対するからには遠慮せずに済みますから」
「あー…あんまりいじめないでやってね」
「善処します」
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