第10話 ドイツの地で

 自分達がどこに居るのか、ずっとオーストラリア圏内の上空だと信じて疑わなかった。最初に気付いたのはマサだった。マサが、カズキとタカとユウマに聞いたが、窓の外を見ても誰も分からない。

 学長の一言で分かったのだ。

 「ああ…、やっと帰って来れた」

 「学長、ここは?」

 「ドイツだよ。私は先に降りるね」

 すでにタラップは降りてる。

 学長は真っ先に降りた。


 ドイツ?

 いや帰りの足はある。

 窓の向こうを見ると、格納庫から出してきたのか、自分達が乗ってきたヘリが格納庫から出してきたのか外に出ている。

 パイロットが何かしてるのか。

 カズキはエドに言いに行ったので、残り3人はジェットから降りると、ヘリへと向かった。


 エドは、カズキから聞いて驚いた。

 それはそうだろう。パイロットが主の指示を仰がずに行動を起こしたらどうなるか。

 しかし、窓の向こうに見えるのは、久しぶりに見る、あの方の屋敷。

 あの屋敷とか、あの方とかは問題ではない。

 一番の問題は、マルクだ。

 どっちにしろ降りないと…。


 ん…。自分のヘリ操縦士のパイロットが自由に動いてるのが見える。

 マサと彼が手に持ってる物は、食料カゴだ。その後ろには、水の入った箱を台車に乗せて運んでるタカとユウマの姿があった。

 そうか、あのパイロットは管轄塔に行き、リーダーと話をしたんだな。

 その連中の後を、リーダーがジェットの方にやってくる。

 エドは、リーダーに話しかけた。

 「このジェットは、プライベート室で暴れたらしく、損傷が酷い。見てくれないか?」

 「はい、畏まりました。エドワード様のヘリには、私の許可と、『御』の許可も頂いております。点検に給油を済ませ、食料を運んでいます」

 「助かるよ。ありがとう」

 エドは、自分のヘリのパイロットに用事があるからと伝えると屋敷の方へ向かった。


 パイロットリーダーは、ジェットの奥にあるプライベート室へと損傷を見に行った。そこでは、ジュニアとヒロト様が言い合いをしていた。

 「失礼致します」

 ジュニアが、その声に反応して睨む。

 「クルー達から、損傷していると報告を貰いましたので、こちらに伺わせてもらいました」

 「ああ。ドイツに着いたのか」

 「はい。損傷された箇所を見させて頂きたいのですが」

 「よろしく。ヒロト、お前も来い」

 と言い捨てて、マルクはさっさと降りてしまったが、ヒロトは中々動かない。

 それを見たリーダーは、ヒロトに声を掛けた。

 「ヒロト様。エドワード様のヘリは点検も終え、給油も食料の詰め込みも終えてます。このジェットを降りられて、左手の方がエドワード様のヘリです」

 「ああ、分かった。ありがとう。トモ、行くぞ」

 あれから16年か…。まだ元気そうな感じを屋敷から受ける。

 ヒロトは、そう思いながらタラップを降りた。


 トモは自分の居る場所に気付いたみたいだ。

 「ここは…!あの屋敷は、御大公の」

 「言うんじゃないっ」と、ヒロトに遮られてしまった。


 左手のヘリの窓からは、知った顔が手を振ってきてる。

 マルクはバイクを駆って、自分の屋敷の方向に走らせてる。

 遊歩道は左手の方だ。そっちに行くと見せかけてヘリの尾を回り込もうと思ってた。


 でも、トモは遊歩道に向かって行くので、ヒロトは邪魔をしてトモを抱き抱えようとしていた。

 「どこ行くんだ?こっちだ」

 だが、トモは迷わない。

 「私は、あっちに行ってみたい。公園あるでしょ。あの時のフェスの前夜祭は、この公園で歌ったり飲食してたんだ。懐かしいなぁ」

 「友明!」

 「なんだよ。昔を懐かっ」


 博人は、友明の後頭部を抱きこんでキスをしていた。

 「っ… んふっ… っ… ぅ、ん… 」


 友明の目が潤んできてるのを見ると、博人は押し倒したくなってきた。

 だが、ここはドイツだ。

 マルクに見つかると色々と煩い。

 なので、博人は我慢して友明の顔を覗きこむと、優しく言ってやる。

 「オーストラリアに戻るぞ」

 「抱っこして」


 はいはい、我儘な奴め…。

 友明を姫抱っこして、博人はヘリの中に入った。

 と、同時に何か黒い物体も入ってきた。

 最後にエドが台車を押して入ってきた。

 「ふんっ…。ざまあみろっ!さあ、ここからおさらばしよう」

 その声にパイロットが応じた。

 「ラジャ」


 その様子を見ていた人物が居た。

 声を掛ける事もせずに、じっと見つめていた。


 ヘリが遠ざかる。

 そのヘリを見送り、ポツリと声が漏れた。

 「エド…。元気で」

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