第7話 理加編(7)
なし崩しのまま、その日がやって来た。
ルイに指定された待ち合わせ場所は、先週まで通っていた吉川料理教室があるビルの近くだった。
郊外に住んでいる私とはちがってルイは繁華街に住んでいるらしい。
「理加 お待たせ」
少し離れた場所から笑顔のルイが手を振っている。
かなり目立っていることを本人は全く気にしていない様子で駆け寄って来てくれた。
「さあ早く行きましょう。」
やや強引に私の腕を引っ張ると、見慣れた道を歩き出した。
ほんの数分歩いて到着した場所は、完全に見覚えのあるビルだった。
「ここですか・・・?」
驚きを隠せない私に、ルイは平然と即答してきた。
「そう ここが我が家。説明すると長くなるからあとでゆっくりね。」
私たちは、吉川料理教室のビルの前に立っていた。
「もうすぐ教室の生徒さんたちが来る頃だから早く入りましょう。」
いつもとは違うビルの関係者が使う出入口から入るとすぐに専用のエレベーターがあった。
手慣れた様子でエレベーターのボタンを押しながら、カバンから部屋の鍵をとりだした。
その鍵に付けられたキーホルダーらしき物は、ルイのイメージとはかけ離れた、
ボロボロのテディベアだった。
「実は、今日の我が家での料理レッスン、急遽、中学生の弟が参加したいて・・・。あの子の料理レベルは理加と互角よ。ふふふっ・・・。」
まだ、頭の中が整理つかないままルイの話に反射的にうなずいてしまっている。
吉川料理教室のビル内に住んでいること。
今から、お邪魔するルイの家は一人暮らし?
家族の人たちが在宅?
先週、もっと詳しく聞けばよかった。
頭の中がグルグルとしている間にルイの家がある階でエレベーターの扉は開いた。
その光景は
「ひっ・・広い」
思わず口からこぼれてしまう。
5階と表示されたその広い場所は、扉が二つしかない。
二部屋の共有スペースには大きなソファと私なんかが名前も知らない大きな観葉植物が置いてあった。
「私の家は、向かって左の扉よ。ちなみに右の扉は兄の家よ。まあ会うことはないと思うけど一応、教えておくわ。」
そう淡々と言うと左側の扉前までかるく引っ張られた。
ピッピッ・・・
暗唱番号を手早く押すと同時ぐらいに中から扉が開けられた。
「るいるい、おかえり。」
屈託もないその元気な声の持ち主は笑顔で私の前に現れた。
かわいいい
まぎれもなくそこに天使がいる。
彼に出会った第一印象だった。
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