第6話 理加編(6)
この日も、いつも通り料理教室に通っている。
まさか、この二時間後、料理教室をやめているなんて知らずに。
ルイとは、別々のテーブルで、吉田のおじいちゃんは、休みで、鯖の竜田揚げの件を謝るタイミングをつかめないでいた。
このままスルーして、なんとか切り抜けてしまえるなら・・・。
そんな思いも、ルイのメモが頭をよぎってかき消した。
とりあえず、二人がそろっているときに謝ろう。
今日は、やめておこうと、いそいそ帰る支度をしていたその時だった。
ルイが目の前に立っている。
「理加、もう帰れる?」
心の声を聞かれたのかと、内心びっくりして目をそらしてしまった。
「理加さん、返事は?」
こんな時に、さんづけされると、ますます目を合わせにくいよ。
「帰れます。」
「そう それじゃ一緒に来て」
やや強引に腕をつかまれると、そのまま料理教室の受付に連れて行かれた。
「今日で、私たちやめます。」
いきなりの言葉に、私は固まってしまった。
「あの 私、やめるなんて・・・。」
受付の人も、なんでひきとめてくれないの。
「はい、書類書いて。」
私の言葉をさえぎると、問答無用でルイからペンを手渡された。
もちろん支払い済みの受講費も返金されないし、違約金まで発生してしまった。
そう、私はルイのなすがまま、料理教室をやめてしまったのだった。
帰り道、ルイは、かなりご機嫌だった。
「理加 怒ってる?」
「怒りますよ。当たり前です。」
「でも、顔が怒っていないわよ。」
「怒っています。」
こんなやりとりをしながら、歩くのは正直、とても楽しかった。
「この埋め合わせは、きちんとするわね。」
「お願いします。」
遠慮なく返事をしてみた。
「では、来週から、私の家で料理の特訓ね。」
「えっ・・・?」
私の驚く顔をよそに、ルイは満月に見惚れているようだった。
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