第4話 理加編(4)
私は、郊外に、両親と高校生の弟、愛犬マルチーズのユンで暮らしている。
「うっ、まずい。」
弟の一声で、夕食の団らんに気まずい雰囲気が流れた。
さらに容赦なく
「姉ちゃんの料理ていつまで続くの?」
「・・・・」
すかさず母がフォローにはいる。
「たっくん、お姉ちゃんの料理美味しいわよ。お母さん、週末の夕飯は楽しみなんだから。ほら、この鯖の竜田揚げなんか最高。」
「母さん、マジで言ってるのかよ。なんで竜田揚げの衣が小麦粉だけなんだよ。
普通、片栗粉だろ。それに焦げてる。」
料理教室に通いだしてから、週末の夕飯は、私が作っている。
弟いわく、超初心者の料理より、母の通常食が食べたいらしい。
一生懸命作ってるのに、このバカ弟め。
いつもなら、言い返すのに、何も言わない私に家族全員の視線が集まる。
「お姉ちゃん怒ってないわよね。ほら、お父さんなんておかわりしてるわよ。」
「おやじ、俺の分もやるよ。」
父の目が、自分のノルマは達成したと言わんばかりに、いらないことを言うなと弟に訴えかけている。
でも、私の頭の中はそれどころではなかった。
この鯖の竜田揚げは、料理教室で習ったのだ。
そう、あの鯖の一件の日に。
あの日、私と同じテーブルだったのは、ルイと吉田のおじいちゃんの二人。
私が二人の竜田揚げの衣も用意したのだ。
まちがえなく、小麦粉をたっぷり、まぶしてしまっている。
吉田のおじいちゃんに関しては、一口食べて、亡き妻の竜田揚げを想い出すと語って、ぜひ、持ち帰り仏壇に供えたいと・・・・。
だから、早く帰りたい一心の私は、まだ箸をつけてない自分の竜田揚げを吉田のおじいちゃんに渡したのだ。
夕食後、レシピノートを確認した。
きちんと片栗粉と書いているのに。
「あっ!!」
今度、一緒に料理しましょう。
もちろん竜田揚げをね。
あなたから声をかけて。
ノートの隅に書かれているその字は、間違いなくルイのものだった。
チーン
吉田のおじいちゃんが仏壇の鐘をならす音が一瞬、私の頭の中で響いた。
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