「僕」の独り言4

「――見つけた」


 叔父さんの遺品は驚くほど少ない。

 元々、物に執着しないたちだったのか、それとも別の理由があったのか……。ともかく、僕の家に運び込まれた叔父さんの遺品は、ダンボール箱にして十個にも満たない位に少なかったのだ。


 その数少ない遺品の中から引っ張り出したのは、叔父さんのアルバムだった。

 アルバムと言っても立派な装丁のものじゃなく、写真をプリントした時とかに貰えるおまけの安っぽいアレだ。それが十冊ほど出てきた。

 僕はこのアルバムに


 僕がまだ小さい頃の話だ。

 父親と兄――つまり僕の祖父と父とは折り合いが悪かった叔父さんだけれども、母親、つまり僕の祖母とはそこそこ連絡を取り合っていた。

 祖母は叔父のことを心底心配していたらしく、何かにつけて顔を見に行っていた。その際、祖父や父に内緒で、まだ幼い僕を連れて行くことも多かった。何故だか知らないけれども、僕と叔父さんはウマが合って、祖母もそれを知っていたのだ。


 叔父さんとどんな話をしたのか……正直よく覚えていない。

 ただ、叔父さんが非常に優しかったこと。ちょっと荒っぽいけど男らしかったこと。世界中を旅した時の話を面白おかしく聞かせてくれたことは、なんとなく覚えている。

 そして旅の話をしていた時に見せてくれたのが、このアルバムだった。


 ――叔父さんの日記帳を読み進める内に、僕は所々の記述に奇妙な既視感を覚えるようになっていた。日記の中で描かれた一部の風景に、何だか覚えがあったのだ。

 最初は、叔父さんが実際の外国の風景などをモデルにしているのかな? と思い、適当なワードでネット上の画像を検索してみたりもしたけれども、どうにもピンとくるものがない。そのまま、いくつか検索ワードを試して画像をあさっている最中に、ふと思い出したのだ。幼い日に見た叔父さんのアルバムの存在を。


 そう、僕が感じた既視感の元は、叔父さんのアルバムだったのだ。

 このアルバムの中にはきっと、日記帳に書かれた風景と同じような写真が収められているはず。


 ――それが何を意味するのか僕にはまだ分からないけど……僕は、アルバムを、そっと開けた。

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