第44話
先ほどとは逆で、その音は玄関からだんだんと遠ざかってゆく。
ずるっ ずるっ
遠ざかるにつれて音は小さくなってゆき、やがて何も聞こえなくなった。
それでも上条はそのままドアに耳を押し付けていたが。
が、いくら経っても何の反応もなく、やがて諦めた。
上条は下宿に帰った。
もちろん明日桜井に会っても、このことは言わないでおこうと思った。
木本のところへは行かないと約束していたし、何よりも木本が言った一言が、上条の胸にしこりの様に残っていたからだ。
――吸鬼様……か。
しばらく木本がその言葉を発した意味を考えていたが、考えれば考えるほどに嫌な気分に襲われるので、考えることを放棄して床についた。
何も言わなくても当然のように朝一に学食で合流した。
お互いの顔を見ただけで、何の成果もなかったと察したが、一応上条が先に口を開いた。
「見つかったか?」
「だめだよ。そっちは?」
「だめだったよ」
しばらく無言の時を過ごしたが、やがて桜井が言った。
「そうだ、洞窟へ行ってみよう」
「えっ、今更行ってどうするんだ?」
「とにかく行ってみるんだ。何か新たな発見があるかもしれないじゃないか」
「あんだけ探したんだ。もう何も見つからないんじゃねえの」
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