第33話

「ちょっと待ってくれ。ここには誰もいないのか? 鍵も掛かっていなかったし」


「女の人が一人いるけど、今の時間ならその先にある喫茶店でお昼ご飯及び、休憩を取っているはずだよ」


「いやいや鍵もかけずに食べに出たらだめだろう。それに桜井、そんな人がいるなら、勝手に本を引っ張り出したら、まずいんじゃないのか」


「夏休みに入ってから今までに、僕がここに何回通ったと思っているんだい。ここにはめったに人が来ないからね。今ではすっかり顔なじみさ。信用もされているし、なんでも勝手に使っても良いとの許可ももらっているよ」


「いや、それならいいけど。……いやいや、俺たちが来たときにはすでに誰もいなかったぜ。仮に俺たちが来ると知ってても、その前に外出するのはまずいだろう」


「僕は彼女に、いついつ何時に行きますから、なんてことを、事前に言ったことは一度もないけど」


「それじゃあ、勝手に出て行ったのか。鍵もかけずに」


「なにか問題でも」


「おおありさ。泥棒とかが入ってきたら、まずいだろう」


桜井は周りをゆっくりと見渡した。


「こんなところに入る泥棒がいると思うのかい」


上条も周りをゆっくりと見渡した。


「いないな」


「だったら問題ないじゃない」


「そうだな」


「それで、これなんだけど」


桜井は古書を指差した。


「三百年ほど前に書かれた古書のレプリカだよ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る