第276話幕間

「つまり、一樹はさらわれたってことなの?」


「ずいぶんと手の込んだストーカーですわね」


教官に食って掛かる日英の2人を見ながら、私ことアナスタシアはため息をついた。


「違う。あくまで米軍の訓練に参加しただけで、終わったら戻ってくる」


それでも二人は満足できなそうで、そわそわしていた。


「でも、相手はあのストーカーだよ」


「わたくしも、何かしらをすると思いますね」


私からすると、お前らも同じぐらいメチャクチャなんだが。


そう思ったが、黙った置いた。


「そこについては、私がすでに手を打っている。もしエミリーから手を出した場合、直ちに国際問題にすると言っておいた」


「しかし、それだと……」


アイツから手を出したら、何の問題もないってことになるのではないのか?


同じことを考えてるのか、周囲は無言だった。


「一樹のことだよ。簡単に誘惑されちゃうって」


「性欲が服を着てるのが、お兄様ですからね」


いつも思うが、あいつに対する信頼はないのだろうか?


「エミリーちゃん、話には聞いておったが、なかなか強烈な求愛行動をするヤツやな。ウチはこういうヒロインも嫌いやないで」


錬金術師の少女は楽しそうだ。


「とはいえ、よしかの婚約者を連れ去られるのは困るは事実や。よしかには、家庭をもって欲しいんやから」


「一樹君と結婚するかは、その時になってみないと分からないですよ」


「それだけやないだろ? 聞いたで、サーシャちゃん」


「私のことか?」


何故かいきなり話を振られる。


「アンタ、きれいな格好で一樹はんとデートしたんやろ? よしかも着物着て、お見合いしたらしいけどな」


「それがどうかしたのか?」


何かしらの意味があると思い、あの服を着てしまった過去の自分を私は呪った。


日本で言うところの”黒歴史”なのだろう。


「その時、一樹はんと約束をしたと聞いたで。どんな内容かまでは、教えてもらえへんかったが」


くすんだ金髪の少女は、楽しそうに言う。


「その相手を連れ去られたわけや。どうにかして取り返さないと、まずいんやないのか?」


私はそれに答えられなかった。

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