第81話模擬戦

開始早々、サーシャはライフルをフルオートで斉射。


触媒の入っていた薬莢をはじき出しながら、彼女のライフルは氷弾を放った。


マナが濃く、池から水を集めれるので、サーシャへの負担は軽いであろう。


当然、その攻撃が桜子を捕えると思いきや。


「煙幕?」


マイシスターのAAから謎の煙が噴出した。


それでも、氷弾はすでに撃ちこまれているので、問題ないだろう。


そう思ったのだが、


「いない?」


煙の先から、妹が消えていた。


試合が開始した時、桜子は確かにそこに存在していたはずなのに。


ゆえに、サーシャの氷弾は空を切る。


「こちらですわ」


「いつの間にそっちへ?」


開始時の場所から大きく回り込んで、サーシャの後ろ側にいる。


瞬間ワープじゃないのかと思うほど、早い移動であった。


「魔法だな」


俺は直感的に理解できた。


ランディングギアや、背部のブースターなど。


マイシスターの使用してる専用機には、移動を補助する機能はついていないように見える。


それなら、桜子自身が持っている能力であると推測できた。


「とは言え、装甲が厚いあの機体でか」


当たり前であるが、質量が多ければ多いほど、移動にかかるエネルギー負荷は高い。


もちろん、魔女の使う魔法であろうとも、この原則からは逸脱不可能。


あの瞬間のマイシスターには、かなりの魔法による負荷がかかっていたんだろう。


使用マナも多かったはず。


「おっと、集中しないと」


妹と嫁候補の、晴れの一戦だ。


見逃すわけにはいかない。


「逃がさん」


サーシャが振り向きながら攻撃。


AAを着ての反転は、足がもつれて転倒の恐れがあるため、高難易度スキルである。


が、訓練の成果を出せたようで、銀髪の少女はよどみないスピードでそれを行った。


しかし、桜子はまだ移動を続ける。


サーシャの周りを一周し、またスタート位置近くに戻ってきてしまった。


「何の意味が?」


これでは、マナの無駄遣いではないのか?


そう思った時、妹は両手で抱えていた錘を振りかぶった。


いくら長柄武器であるとは言え、届くはずもない距離である。


「行ってください、<フツミタマ>」


武器の先端に装着されていた鉄球が分離し、何もない空中を疾走しだす。


重い鉄球が、サーシャの背中に迫った。


筋力ではあり得るはずがないので、これも魔法による現象。


「何?」


振り向く途中であるサーシャは、その危機的状況に気が付いた。


決意を決め孝雄をし、ライフルの引き金を引く。


「氷盾形成、数は5」


鉄球とサーシャの間に、障害物が生成される。


「隠し玉はこれか」


弾をばらまくだけではない。


<ルサールカ>のビットで作れる氷の盾。


サーシャはありあわせのライフルで、この魔法を発動できるようにしたようだ。


「しかしな……」


圧倒的質量の前に、サーシャが作った防御など、全く意味を持たない。


多少、スピードは落ちたが、鉄球はなおサーシャに向けて飛翔中。


せっかくの隠し玉だが、起死回生の切り札にはならなかったようだ。


「まだだ、銃剣生成」


サーシャの使っているライフルの銃口付近に異変が起きた。


光を乱反射している何かが、作られてるようだ。


「氷の銃剣か?」


剣というよりも、斧の刃というべきか?


厚い氷の銃剣である。


バルディッシュのようだ。


「それで叩く気か?」


鉄球までの距離はわずか数メートル。


もう、腕を伸ばせばライフルが届くぐらいだ。


「くらえ」


俺の予想通り、氷の斧は鉄球を捕える。


不思議な音がし、氷が砕けて破片が散らばった。


「おい、どうなった?」


俺は駆け寄りながら、現状把握に努める。


サーシャに鉄球は当たったのか?


「無事だぞ」


鉄球は少しであるが軌道をそらし、サーシャの横をかすめたようだ。


「よかった」


安心したぞ。


「お姉さま、やりますわね。これは想像以上です」

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