第80話火ぶた

「ここが試合の場所」


「はい、わが一族が管理している聖地です」


「日本庭園のようだな」


大きな池があり、木の橋が架かっている。


マイシスターに連れられて、どこへ行くのかと思ったが、意外とまっとうである。


「ここはマナが他よりも濃いのですわ」


「そんなことは言われなくてもわかっている」


サーシャはマナ技術のノウハウを手に入れるために、投薬等の実験を受けた被験者である。


副効果こそあったが、古き時代から続く魔女に匹敵する魔法能力を身に着けていた。


ゆえに、マナの感受性も高い。


もちろん、そんなことは桜子だって調べているであろう。


「桜子ちゃん、そんなニセモノの姉なんてぶっとばして」


何故か、オリヴィアはマイシスターに声援を送る。


「お前はどっちの味方だ?」


サーシャからツッコミを入れられる金髪の魔女。


「何言ってるの? 姉が義妹を応援するのは当然でしょう?」


どうやら、俺たちと道をたがえてしまったらしい。


「そこに池がありますよね? お姉さまの得意魔法は、氷属性であると聞き及んでいます。中の水をご自由にお使いください」


「ハンデのつもりか」


「お姉さまの使う装備なら、それにすらなりませんわよ」


桜子は余裕のあるほほえみを浮かべる。


「しかし、間違っていないだろう」


サーシャの使っているAAは、当然だが専用機である<ルサールカ>ではない。


それは、俺たちがお世話になっていたAF基地に置いてきてある。


訓練の時に使っていた、汎用型のゴブリンでさえないのだ。


「あんまり私をなめるな」


それでも、サーシャはへこたれなかった。


この基地に配備されている、日本製のAAである黒鉄。


黒くて厚い装甲をしていて、防御寄りの性能である。


標準装備の武器はライフル銃。


それをサーシャは自分用に調整し、氷弾がばらまけるように設定した。


専用機のように多角的な戦いはできないが、弾幕を張るぐらいなら問題なくできる。


ほかにも、何かしらの隠し玉を用意しているらしい。


「なかなか性能がいいぞ。私との相性も悪くなかった」


「お褒めいただき、光栄ですわ」


でも、勝負はわたくしが勝ちますけど。


マイシスターはそう付け加えた。


「お前のAAはひょっとして……」


機体に指をさす俺。


「そうです。専用機ですわ」


「一応、聞き及んではいたさ」


俺は日本政府から専用機を貸し与えられ、運用データーを収集している。


いつか来るかもしれない、世界規模の魔法大戦で、日本が勝利するために。


そのため、日本にいるほかの専用機もちのことは、少しではあるが知っている。


「それが<タケミカヅチ>か」


黒鉄をベースにして、桜子用に改良した機体らしい。


装甲の厚さは、改良前と同じ。


神に仕える巫女の清純さを表してるのか、真っ白なカラーリングである。


なお、使用されて集まったデーターは、俺のスサノオにも生かされてるとか。


「はい、お兄様の兄弟機のようなものです。わたくしのほうがが妹なのに。機体は姉でしょうか?」


桜子は冗談を言ったようだ。


「お前、その武器を使うのか?」


「いけませんか?」


「悪くないが……」


サーシャが驚くのは無理もない。


桜子が手にしているのは、ライフルではないのだ。


だからと言って、拳銃でも短機関銃でもない。


それ以前に、飛び道具の範疇に入らない武器である。


「錘と言いますのよ。宋の時代には使われていたようですわね」


鉄球が付いた先端から、長い取っ手が伸びている。


小柄な体を超えるほどの長さをした、重い両手もちの鈍器。


それがマイシスターの使用武器である。


「いきますわよ」


マナの力が強くなった。


そう思ったとき、妹の周りが発光したように見える。


それだけではなく、少し焦げ臭い。


「電気か?」


俺にはそう感じた。


「気持ちが高ぶってしまったようですわね。わたくし、戦いになるといつもこうで。治さないととは思ってるのですが」


「魔法の暴発だな」


未熟な魔女に多いらしい。


もちろん、あいつはやらないぞ。


「義妹は才能あふれる魔女なんだね、義姉として嬉しいな」


「そうかい」


でも、無意識で魔法が発動するぐらい、才能が高いともいえる。


「失礼しましたが、仕切り直します」


空気が変わる。


妹であった少女が、なんだか清浄な存在に見えた。


「おい、お前が合図しろ」


「俺?」


いきなりサーシャに言われ、面食らう。


よく考えてみたら、誰もやらないと始まらんな。


「じゃ、僭越ながらやらせてもらいましょう」


俺は両者を見つめる。


「5・4・3・2・1、スタート」


姉と妹らしい2人の、戦いの火ぶたが切られた。

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