第40話彼女の過去①


 世界には難民があふれている。


 何のおかしいこともない。

 

人同士の争いで世界が混乱している中、異世界化という事件が起きたのだ。


 そのせいで済む土地を奪われた一家。


 親が異世界化に巻き込まれ、孤児となった子供。


 そういった問題は,至る所に転がっていた。


 進んでいく異世界化への対処と並行して、各国政府を悩ませている。


 難民収容所の建設。


 国営の孤児院。


 こういったものが多く作られていった。


私こと、アナスタシアもそういった孤児院で生まれ育つ。


異世界化の影響で、世界的に経済へ大きなダメージが出た。


各国の景気は悪くなり、税収は落ちていく。


異世界化への対処などで支出は増え、福祉に使われるカネは減った。


当然、孤児院にわたる予算は少ない。


食事の量や質は、かなり悪かった。


子供たちの、栄養状態もよくない


「お姉ちゃん、おなかすいたよ」


 私は何時も、妹たちの悲鳴を聞いて過ごしていた


 どうにかしてやりたい。

 

そう思っても、私にできることなど、何もなかった。


 しかし、ある時に転機が訪れる。


 孤児院に、AF職員がやって来たのだ。


「ここの子供を見させてもらっていいでしょうか?」

 

どうやら、私たちに用事があるらしい。


「列に並んで。すぐすむから」


 AF職員は、小型の機械を使い、私たちのことを調べていた。


 その当時の私には理解できないことであったが、彼らはマナを測定していたのだ。

 

孤児の中から、強い力を持つ子供を見つけ出す。


 その子供を部隊で引き取り、異世界化対策に利用するために育てる。

 

それが、彼らの目的だった。

 

私は、高い適性値を出してしまった。

 

もちろん、その時の私は意味など理解できない。

 

戸惑う周りの大人の顔を、不思議に思うだけだった。


「この娘ですが、私たちが引き取らせてもらえないでしょうか?」


 私に宿るマナの素質を知ったAF職員は、私を手に入れようと孤児院の大人にすり寄っていった。


「その話は断ります。あなたたちに預けることが、この子の幸せにつながると思えませんから」

 

当然、最初は大人も拒んでいた。

 

あくまで、最初だけだが。


「そういえば、あなた方に援助資金を渡そうと思っていたんです。最初はこれぐらいの金額だけですが」


 職員は札束が入った封筒を渡そうとする。


「いりません。帰ってください」


 孤児院の大人は激怒し、そいつらを追い払った。


 買収。

 

もちろん、その時の私は何も分かっていない。


 怒る大人と、それを見て悲しむ妹や弟たち。


 私はうろたえるだけだ。


 しかし、それは長く続かない。


最初から資金難の孤児院だ。


やがて、経営がいき詰る。


「彼らからの資金援助を受け入れたほうが……」


「バカを言うな。この子を売れというのか?」 


 いつからか、大人同士で喧嘩が起きるようになっていた。


 子供には意味が分からない。


そう思っていたのだろう。


 私やほかの子供たちの前でも、日常的に喧嘩は行われていた。


 時には、暴力行為も起こる。


 孤児院の空気は悪くなる一方だ。


 妹たちは大人を恐れ、私に寄って来る。


 その体は、恐怖で震えていた。

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