第35話命令

「む。お前は」


 俺のことを気付いたな。

 

嫌そうな顔になる。


「やあ、アナスタシア。待っていたよ」 


 警戒されないよう、気さくな感じで言う。


「貴様、これはどういうつもりだ?」


「どういうつもりって?」


 デートをするつもりだけど。


 何かおかしいのかな?


「私はこの格好でこの町へ行き、そこにいる人物の指示に従え、と教官から言われただけだ」


「そうか」


 説明なんてしていなかったんだな。


それなら、だましたようなもの。


「どうしてこんな恰好なのか分からなかったのだが、お前に見せるためか。どうだ? 私がこんな恰好をしたら、おかしいか?」


「いえ、全然」

 

むしろ、とっても似合っていると思う。

 

いつもより、魅力的。


「な、からかうな。私は帰るぞ」


 サーシャは俺のもとを離れていこうとする。


 帰っちゃう気か?


「待てよ。そこにいるやつの指示に従えと言われたのだろ? 俺はお前に帰れなんて言っていないぞ」


「それは、悪ふざけだったのだろ? 私を笑いものにするための」


「違うよ」


 手を伸ばし、彼女をつかむ。


「触るな」


手を振りほどかれてしまった。


「いきなりごめん。でも、サーシャが可愛いと思ったのは本当だよ。その服、特に合っていると思う。」


「そうか? 私が着たら変だろ。あと、愛称で呼ぶな」


 自嘲したかのように言う。


「いや。何時もの軍服も、きりっとしていていいと思う。でも、アナスタシアはそういうファンシー系の可愛い服も似合うと思うな」


「恥ずかしいことを言うな」


 顔を赤くしている。


 こういう経験はないのかな?


「俺はお前に命じる。俺とデートしろ」

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