第31話馬鹿者

「あのばか者め」


 この学園の教官である早瀬はそう嘆く。

 

それをやったら、レース自体が成り立たないだろう。


 何のために、この決闘形式したか分からない。


「私としては、面白いデーターがとれそうだからいいわ」


「だろうな」


 佐伯に向かって吐き捨てる。


 当然、ソイツは端末の前でウキウキして勝負の時を待っていた。


「だが、バカが考えたにしてはいい方法だ」


 サーシャほど上手に走れないアイツには、それぐらいしか勝利方法はないだろう。


 すれ違う一瞬に賭けるなら、待ち構えていた方が効率的だ。


「お前はどう対処する?」


 彼女はつぶやいた。


 


「アイツはそう来たか」


 このままもう1度抜き去り、勝利するだけだと思っていたが。

 

サーシャはそう考えて、一樹を再評価する。


 ただのバカではなかったのだな。


「1つ使うだけで済むと思っていたが」


 空中に浮遊させている、専用装備のビットに目を向けた。

 

これは彼女専用の、魔法投影装置となっている

 

今現在、浮かべているのは2個だけだ。

 

最初は背中のハードポイントに付けていた。


スタート直後に浮かべている。

 

インチキではない。


「進まない」と言ったが、それは「行動しない」という意味ではないのだから。

 

30秒の間に攻撃があったら、きっちり防ぐつもりであった。


 地上5メートルぐらいの場所を浮遊し続けているので、あいつには発見されていないだろう。

 

見つけたらどう思うのか?

 

自問自答しながら走り続ける。


「先ほどやった、空間指定の氷壁以外も必要になるかもな」


 そこの空間に配置するため、殴った衝撃ぐらいでは吹き飛びはしない。


 アイツの狙いが分かりやすすぎたので、それを利用して防げた。


 だが、次はそうはならないかもしれない。


「それでも、勝つのは私だ」


 そういって彼女は加速した。


 彼の立っている場所を目指して。

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