第124話「遠い記憶」

眩む視界の端で、オレは意識を保つ事に専念する。

無計画に能力を使っている所為か、体力的にも身体的にも堪えているようだ。

「大丈夫?フレア?」

「シルフィ、オレの事は良いから索敵でも続けてくれ。正直言うが、相手が相手だ。のんびりしていると追い着かれるのは時間の問題だ」

「分かった。イフリートの分も、とりあえずは頑張らないとだもんね!」

「あぁ、よろしく頼む」

小さい身体で、オレの肩でシルフィは拳を空に掲げている。

こいつもこいつで、色々と思う所があるのだろう。

精霊同士でも人間同士でも、他人に同情するかしないかなんて同じ事だ。

魂を持つ者……いや、命在る者全てにおいての間違いか。

「……ははは」

「フ、フレア?どうしたの、急に笑って?まさか何所か打った?無造作に飛行し過ぎたかな?」

「いや、大丈夫だ。何も問題はない。少し馬鹿な事を考えただけだ」

本当に馬鹿な事を考えた事だ。

精霊同士なのはともかく、自分を含めてなのは馬鹿げている。

オレは人間じゃないし、そもそもそれから掛け離れてしまった存在だ。

それはアイツも同じ事だ。だからこそ、ここで終わらせなくてはならない。

この世界を終わらせる為に……。

「探したよっ、フレア・バースティア!今度は逃がさない!!」

――あぁ、オレももう、逃げるつもりは無いさ。

「シルフィ、精霊とリンクしろ。ここから先、奴らの答えを待ってる暇は無いからな。……行くぞ、オルクスッ!死ぬ覚悟は出来てるかっ!」

「それはこっちのセリフだ!フレアァァァァァァッ!!」

まさかあの頃は、こうやって対峙する事になるなんて考えて居なかったからな。

もし出会い方が違えば、住む世界が同じだったなら……。

オレもこいつも彼女も、共に笑える世界があったのかもしれないな。

そんな馬鹿げた事を考えながら、オレはオルクスと再び対峙する事を決めたのだ。

また繰り返さない為にも、これは必要な事なのだから――。

「……(そうだろう?ハーベスト)」


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『はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……』

地面に突き刺した槍先を見つめ、溢れ出る汗が髪を辿って下へと落ちていく。

これは誰かの夢なのかどうか、そんな感じで曖昧な視点だった。

でも確かに視線は動いていて、その世界の中から目を離す事が出来ない。

『……大丈夫ですかっ!しっかりして下さいっ、まだ終わってません!皆、気を抜かないでっ』

再び地面から槍を抜き、向かってくる相手を薙ぎ払いながらそう叫ぶ。

どういう状況なのかは見れば一目瞭然で、でも振り回した力はどこか寂しげで物足りない。

まるで何かを振り払うような……認めたくないような……。

上手く言葉にする事は出来ないが、そんな左右に揺れる感覚だ。

何処にも行く当てがある訳でもないのに、どうしてこんな事をしていると思う程だ。

だがそれがこの現状で、目の前で起きている事なのだろう。

それが『戦争』と呼ばれる争いである事は、間違いないだろう。

平和、といういつどこで分かるのか分からない。

その曖昧な状態を探す人物は、その手元にある槍を見つめて呟くのだ。

『――行くよ、ファランクス。私たちはまだ戦える。そうよね?』

ダメだ。それ以上続ければ、身体が悲鳴を上げる事は明らかだ。

行ってはダメだ。その先に向かっては……。

そう言おうとした瞬間、まるで遠ざかるようにその世界が離れて行ったのだった。

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