第24話「再会」
王都ドミニオンで過ごして、やや二週間が過ぎようとしている。
僕はいまだに特訓を成果は出ず、能力の発動は出来ても制御が出来ない状態である。
世界樹の根元でリンと話してから、僕なりに練習はしてみたのだが……。
まるで制御出来たためしがないのだ。
「――練習してるのは良いが、オマエじゃ満足に使えねぇよ」
「……うわっ!?」
急に声を掛けられた挙句、僕は軽く間合いに入られて足払いをされてしまう。
尻餅をついた様子を見て呆れたのか、冷ややかな溜息が聞こえてくる。
「……はぁ~。このぐらいはちゃんと避けろよ。そんなんだから、水の大精霊だとかに面倒見られるんだよ」
「なっ、ディーネは関係ないだろう!?」
「大体オマエ、良く精霊と契約出来たなぁ。そこが不思議でしょうがねぇ。何でオマエみたいなへなちょこが、精霊にそれも水の大精霊と契約出来てるのかが不思議だ。っていうか、そいつ馬鹿だろ。オマエと契約するとか正気とは思えないな」
彼が僕の攻撃を避けながら、そんな事を言い続ける。
「――悪かったな、私は至って正気だ。ばかものが」
悪態をつく彼と僕の間に、ピョコンと顔を出してディーネがそう言った。
「いつからそこにいたの?」
「なに、簡単な話だ。君は私の契約者だからな、近くにいるのは当然だ」
腕を組んで自分で頷きながらそんな事を言う。
地面の下から生えているかのようで、とてもシュールな絵だった。
水の大精霊って、水が無くても地面から生えられるのかな?謎である。
「……こいつ頭大丈夫なのか?」
「ごめん。僕もたまに思うときはあるけど、ちゃんとしてる人だと思うよ。多分……」
「??――お前たち、何故そこは気が合うんだ?」
いやディーネ、誰でもそう思うだろうと思うよ。
何かもう見た目が、スライムみたいになってたし……。
「――それでディーネ、何で来たのさ?」
皆に黙ってもらえてるとは思うけど、どうして彼女はここに来たのだろうか?
「私は先程も言ったが、契約者を心配するのは当たり前だろう?」
「心配してくれたんだ。ありがとう、ディーネ」
「お、うむ。そう素直に礼を言われると……ごにょごにょ……」
彼女にお礼を言ったら、何故か顔を俯かせてしまった。
何か気を悪くさせる事を言ってしまっただろうか。
「それでウンディーネ、オマエに聞きたい事があるんだが?」
ディーネは咳払いをして口を開く。
「――何だ?かつての王よ」
「やはり知ってたか。まぁ大精霊ならそんなもんか」
あれ?二人は顔見知りだったのかな?
「何をアホな顔をしているんだ、我が主。こやつは見た目は物騒だし、怪しい空気を纏っているが――」
「おい」
「――こう見えて、こやつは数百年前の王でもあるんだぞ?眼つきが悪いがな」
「眼つき関係ねぇだろうが。オレの事を言うのは良いが、王だったという歴史は抹消したいもんだがな」
彼は、溜息を吐いてそう言った。
何故だろう。
彼の言葉には、何か憂いを帯びていて遠い目をしている。
「それでウンディーネ、どこまで把握しているんだ?」
「その質問は人間としてか、それとも王としてか?」
「どっちの方が答えやすいんだ?」
「……どっちだと良いんだ?」
僕、この場に必要あるのかな……。
でも動こうとしても、何故かディーネに服を捕まれているから動けない。
僕がいなくても、話は進むと思うのだけど。
「質問を質問で返すな。どっちでも良いから答えろ」
「はいはい。全く王様ってのは、どの時代も理不尽だな。なぁ我が主」
答えづらい質問をして来ないでくれますか、精霊さん。
そんな目で睨まないでくれますか、フレアさん。
「……まぁ私が把握してる事は、我が主がこの世の者ではないという事だけだ。君の事は、古い書物から見て覚えていただけだ」
「ほう。リンには会ってないのか?」
「神には会ったが、私は我が主を頼まれただけだ。不本意ではあるが、神の命令となれば仕方ないだろう」
「嫌なら嫌なりの顔にしたらどうだ?表情が緩んでるぞ」
「――おおっと。……じゅるり……」
……ん、今よだれ拭いた?気のせいかな。
「そういえば、バースティア王よ」
「その名で呼ぶな。次言ったら殺す」
「はいはい。ではフレアよ、君が知っているであろう情報をこちらにも共有出来ないだろうか?」
「それは依頼か?」
「そう受け取ってもらっても構わない。君が出来る範囲で構わないし、無理強いはさせる事は私はしないさ。安心しろ」
「頼んでる割には、ディーネ……上からだね」
「なぁに、君が心配する事はない。この者は、自分の身が危なくなる事はしないだろう。それもこの王都では特にな」
それはどういう事だろうか。
何か彼が深い思い出がある場所とかそういう事なのだろうか。
「まぁ否定はしないが……。まぁ今オレが言える事は、そうだなぁ」
彼は
「――オルクスという男に気をつけろ。見た目は少年と変わらないが、特徴は左右の
「会った場合はどうするの?」
「そんなもの自分で考えろ。オレが今知ってるのは、それだけだ。んじゃ、人を待たせてるから」
そう言って、林の中へ消えていく。
ディーネは僕がやっている事を秘密にする為、一旦宿屋に戻って行った。
僕はというと、また能力の制御の特訓をするのであった――。
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その夜……皐月、ディーネ、アルフレドの三人は、宿屋で姫であるアリアが来るのを待っていた。
彼らが話すのは、オルクスの事とこれからの事である。
復興も順調に進んでおり、あと数日あれば元に戻るという所である。
その為、彼らは三人、再び旅に出る事を伝える為であった。
「――お待たせしました。遅くなり申し訳ございません」
部屋に入ってきたのは、アリアではなく彼女のメイドであるルーシィがやってきた。
「姫はどうしたんだ?君一人か?」
ディーネは気になった事をすぐに聞いた。
ルーシィは頭を下げたまま、それに応える。
「姫様は今、大事な会議に出席しております。賊がいつ来てもいいように、今後の対策を練っている所です」
皐月たちは、顔を見合わせてどうするかという事を目で話す。
「お姫さんは、俺たちの事は何か言ってたか?」
アルフレドがルーシィに訊ねる。
何か依頼があったり、言伝があれば聞くという事を彼は言っている。
だがそれが伝わったが、ルーシィは言葉を濁してしまった。
「……あるにはあるのですが……――」
「ん?」
ルーシィは言葉を選んでいる最中、皐月へと視線を動かした。
皐月とは目が合ったが、皐月は何も言おうとはしなかった。
「私からも一つだ。答えやすく行こう。ここから旅立っても良いのかを聞きたい。我が主には、これでも友を助けるというアルフの森からの願いを背負っている。それを考慮した上で聞くが――出ても良いか?それとも残れか?どっちだ?」
ディーネは、頬杖をしながらそう聞いた。
この事については恐らく、姫である彼女からの言伝もあるはずだ。
何故なら、会議をする前にこちらとは約束をしていたのだ。
ディーネは秘密裏に、アルフレドに姫を借りると伝えていたはずである。
他にも用件や義務がある場合は、伝えてくれとも伝えていたはず……。
どんな約束事であれ、一言入れるのは人としての礼儀というものだからである。
「……どうした。何か無いのか?」
「えっと、その……」
ルーシィは悩みながら、皐月の事を見る。
そうしている内に、皐月は何かを悟った。
「――ディーネ、ちょっと僕は散歩に出てくるね」
「何故だ?君にも関係がある話だぞ?」
「僕はこの王都の事は何も知らないし、まともに復興だって手伝えてないんだよ。それがここに居たって仕方がないでしょ。ちょっと散歩がてら、外の様子を見に行ってくるよ」
皐月はそう言って、早々に宿屋から出て行った。
残されたディーネとアルフレドは、ルーシィの言葉を待った。
「――君がどうして、彼を追い出したかったのかは分からない。だが彼も、この一件で頑張っていたと思うのだが」
「まぁディーネ、そう言うな。恩を仇で返してるって訳でも無さそうだぞ」
「ルーシィがただ綺麗な女子だから、貴様はそう言っているだけだろうが」
「まぁまぁ、それでルーシィさん。あんたのお姫さんが言っていたであろう伝言を聞かせてもらえるか?」
「はい……姫様のお考えは、お傍におきたいと」
「俺たちをか?」
アルフレドは眉をひそめて、そう言った。
ディーネも、何がなんだか分からず首を傾げる。
「いえ、そうではなく……彼を、如月皐月をお傍におきたいとおっしゃっていました」
何か照れたように言う彼女の仕草で、何故彼の前を拒んだのかを二人は理解した。
「つまりそれは、聞き間違いと理解違いでなければ……あの姫さんは、サツキに惚れたって事か?」
「いやぁ、アルフレド。あの朴念仁にそれは無いだろう。なぁ君?」
「…………」
ルーシィはまるで自分の事かのように照れて顔を隠した。
それを見て、二人は絶句するのであった――。
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ルーシィさんが話しづらそうにしてたから、多分僕が居ない方がいいのだろうと予想。
その結果、僕は夜空の下で散歩をする事になった。
彼女は一体、何を言おうとしていたのだろうか。
僕はそれが一番気になった。
それともう一つ、これは僕自身の問題である。
要は使い方次第……。
僕は自分の手の平を見つめて、リンの言葉を思い出す。
制御の特訓をしている成果は、今のところ日常に影響は無くなって来ている。
食事もまともに出来ているし、比較的普通の生活を送れている。
過去と現在では、すっかり周りの状況が変わってしまったから普通とは違うかもしれないが。
僕にとっては、これぐらいがちょうど良いのかもしれない。
『おや、懐かしい者を見つけたものだな……』
夜道を歩いていると、僕の前にそれは現れた。
前触れもなく、気配もなく。
ただ空中から、ゆっくりと降りてくる。
『ふふふふ、また久しぶりね。少年』
「君は……」
僕は言葉を失ってしまった。
見上げる空から、まるで天使のようにそれは降りてくる。
凍りつくような瞳。
白銀に染まった髪。
僕はそれを見て、やがて口を開くことが出来た。
ただ一言、かつて呼んでいた名前を。
――エルフィ……?
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