第15話「爆発する王都」

「――はぁ~~~~~……」

長い溜息を吐いて、僕は自分の状態を再確認する。

置かれている状態が、人生で一番最悪な状態かもしれない。

木の板の中に手錠が入っていて、僕の腕にガッチリと付けられている。

地面に叩いても、壊れる様子は全くない。

まさか助けた彼女が、この王都の姫様なんて誰も気づかないって。

普通の服で、気取った服装ではなかったから余計だ。

「これからどうしよう」

王都内の盛り上がってる音が聞こえてくる。

グゥ、という大きい音が鳴り響く。

「う……お腹減った……」

はぁ……――。

お腹が減っても、ここから出られる訳でもない。

あちこち確認してみたが、壊れそうな場所も通れそうな場所もない。

しかも何かしらの結界が張ってあるのか、魔力操作が出来ないようになっている。

良く出来た牢屋で、少し参ってしまった。

「はぁ……寝ようかな」

寝転がって、小さい鉄格子の窓を眺める。

空の景色を見るだけになるだけだが、何も無いよりは良いだろう。

「ディーネとアルフレドさん、どうしてるかなぁ。案外心配なんかしてなかったりして、あはは」

「何を一人でぶつぶつ言ってるの?」

突然聞こえてきた足音と共に、そんな凛とした声が聞こえてくる。

その人物は扉の前までやってきて、ガチャリと扉の鍵を開け始めた。

キィという金属が軋む音が響き、薄い光が僕の視界をおおっていく。

扉の奥には僕が助けた彼女の姿があった。

「えっと、どうも」

僕は何を言えばいいのか分からず、頭を掻きながらそう言った。

「はぁ……出ていいわよ。アタシから事情を話してあるし、大丈夫よ」

手を伸ばしながら、彼女はそう言ってきた。

僕はその手を掴むなり、身体が引っ張られる。

座ってる体勢から、立ち上がらせられる。

女の子に引っ張られるなんて、男として情けない。

「あ、ありがとう」

「それじゃアタシに着いて来て?出口に案内するわ」

彼女はそう言いながら、僕の手元の錠の鍵も開けてくれる。

腕から重荷が取れて、付けられてた部分に触れる。

まだ付けられている感覚があるが、しばらくすれば元に戻るだろう。

その様子を見ながら、彼女は「こっち」と促す。

僕はそれに着いて行く事にした。

「そういえば、自己紹介がまだだったわね」

彼女は歩きながら、そう切り出した。

王都の姫である彼女が、僕に名を名乗っていいのかと迷ったが自己紹介をする事にした。

「そうだね。――僕は如月皐月。サツキが名前で、キサラギが家名ね」

僕は、ディーネやアルフレドさんの名前の作りを思い出してそう告げる。

「サツキ・キサラギ……変わった名前ね」

「あはは、良く言われる。君は?」

「あら、アタシの名前はホントに知らないの?……ここに連れ込んだ時、兵士たちが言っていた事は本当みたいね」

確かに牢屋に入れられる前、僕はあの人たちに質問攻めをされた。

『ここへ何しに来た?』『姫様を狙ったのは何故だ?』『本当に何も無いのか?』

何ていう質問攻めだった。他にも色々あったけど、一番困ったのは生まれの国という質問だった。

どう言い逃れるかを悩んだ結果――アルフの森の人たちに拾われた、などという狂言をしてしまった。嘘を吐いていてごめんなさい。

ある意味じゃ、間違ってはいないんだけど……。信用はされないだろう。

「まぁ何はともあれ、今回の事はこちらの落ち度よ。本当にごめんなさい。王都を代表して、アタシ――アリア・R・スコーリアが謝罪するわ」

彼女は胸に手を置き、綺麗なお辞儀で頭を下げる。

そんな彼女を僕は慌てて制止した。

「頭を上げて!君が謝る事じゃないから。困ってる人を助けるのは当たり前じゃないか」

「ふふふ……。謙虚なのね、君は」

その笑顔はとても綺麗で、彼女が王女と思える程の魅力を纏っていた。

「何かな?ボーっとして、もしかして――アタシに惚れちゃった?」

彼女はイタズラな笑みを浮かべ、僕にわざと顔を近づけてくる。

「えっと……は、早く出口に行きましょう。姫様も忙しいから」

僕は気恥ずかしさを隠す為、目を逸らして無理矢理話題を変えた。

ちなみに綺麗だったから、惚れていたと言えば惚れていた。

「あと、それ。アタシの事は普通に呼んでいいわよ?」

「え?でも」

「正直姫様だとか王女だとか、そういう堅苦しいの苦手なの。だからアタシの事は好きに呼んでもらっていいし、言葉遣いも改めなくていいわ♪」

僕なんかが良いんだろうかと思ったが、考えても仕方がなく拒否する理由もない。

「分かった。よろしくね、アリア」

「ええ、こちらこそ♪」

僕らは握手を軽く交わして、城の外で別れる。

僕はそのままの足で、ディーネ達がいると思われる宿屋に向かった。

宿屋の近くまで来た所で、入り口で二人が待っていてくれたのだった――。


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『準備はどうだ?』

『順調だ。手筈も整ってるぜ』

王都ドミニオンに存在する、ある区画。

東西南北の西側。入り口付近にある宿屋で、彼らは密談をしていた。

『しっかしこの王都、噂どおりで助かったな』

『あぁ。見取り図も間違いはなく、作戦はスムーズに進みそうだな』

『いや、油断は禁物だぜ?なにせ、今はあいつが帰ってきてるらしいからな』

『例の番犬の事か?たかが人族だろ?俺らには勝てねぇよ』

地図を無造作むぞうさに広げ、密談が続く。

蝋燭ろうそくだけで、部屋には明かりを点けていない。

「……お前ら、話し合うなら他の場所を選んだらどうだ?」

『お、アンタか。おどかすなよ』

甲冑かっちゅうを外し、剣を外して密談の輪の中で座る。

『でも良いのか?アンタみたいな奴が、俺らに加担してさ』

「今更だ。私はこの場所に期待などしていない。種族という物がある時点で、私たちの尊厳は無いにも等しいだろう」

彼は腕を組んで、そんな事を言い放つ。

彼を囲む者たちは、全員がその言葉を聞いて頷いた。

「決行は明日。この世を再び、あるべき姿に戻す時だ」

彼らは剣を掲げ、天に向けて重ねる。


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「ふわぁぁ~」

歩きながら、僕は大きく口を開く。

「眠そうだな。良く寝れなかったか?」

アルフレドさんが、隣から問いかけてくる。

「いや、逆です。寝過ぎました。体のあちこち、固まってます」

そう言いながら、腕を回して軽く体をほぐす。

王都へ着くまで約三日。そして、昨日の犯罪者扱いと来たら疲れも溜まる。

昨日行けなかった事もあり、今日はアルフレドさんが入っているギルドへと向かっている途中だ。

「そういえばディーネ、部屋にいなかったけど、どこにいたの?」

「……もぐもぐ……ん?隣の部屋だぞ?」

「隣の部屋だったんだ」

「何だ?私の寝込みで襲いたかったのか?……はむ」

「そんな訳無いじゃないか。……ていうかさっきから、何食べてるのさ」

会話はしているが、所々もぐもぐしてるディーネ。

「何ってパンだ、見れば分かるだろう?美味いぞ?――まぁ、やらんがな。……あむ♪」

「はいはい」

いらないし……。

「あ、それを一個くれ……――うむ、ありがと」

さっき宿屋で朝食食べたのにも関わらず、少し歩いては店で食べ物を購入している。

「ディーネ。ギルドにも酒場があるだろ?どうして出店で食うんだ?」

アルフレドさんが、財布を振りながら彼女にそう聞く。

どうやら代金は、彼が払っているようだ。

「分かってないなぁ、お前は。良いか?出店には出店の良さがあるんだ。こういう祭りがある時は、こういう場で買った方が」

「――祭りって、ここで何かやるんですか?」

「ん?私は知らんが?――あるのか?」

彼女は首を傾げながら、彼の方を見る。

「いやぁ、無かったと思うが……どうなんだろうな。確かに昨日より人の数は多い気がするが、王都ここでの祭り事は数年に一回だしな。それにその祭りも、この間やったばっかのはずだが――」

彼は考えるようにして、視線を上へと流す。

「……ん?」

「どうした?アルフレド」

ドクンッ……――!?

視線の先を見ようとした途端、身体が跳ね上がる。

そして次の瞬間――王都の中心が爆発した。

爆発した場所の特定は難しいが、僕は自然と身体が動き出す。

「おい、サツキ!」

あるじ、待っ……待て、アルフレド、追うな」

「何でだ。……って、なるほどな」

二人の声も聞こえず、僕は無我夢中で煙が昇る場所へ向かう。

僕は走りながら、心の中で頭に浮かんだ人物を呼んだ。


――無事でいて、アリアッ!


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