第15話 答え合わせの時間

4月8日


桜が満開になりつつある今日は


私の一番大事な日だ。


朝は掃除だ。


塾の隅々まで綺麗にする。丁寧に、時間をかけて。

塾だけではない。外に出て、玄関先の掃き掃除もする。


大事な日には似合わない雲りの天気であった。


ただ私の場合は違う。

別に曇りでもいいのだ。


しかし今日は曇りなだけでなく風も吹いている。

綺麗な桃色の桜の暖かい風景とは真逆の、灰色の冷たい風が。


いくら掃いても桜が次々降ってくるので程々にして諦めた。

景色は綺麗だったのでそこは良かったのだが。


そして塾の裏手に回った。

そこにあるのは文香の墓だ。

ひときわ大きい桜の木に寄り添うように立っている。


私はバケツに水を汲み墓石を磨き始めた。

一ヶ月に一度は磨いているが、今日はいつにも増してしっかり磨き残しがないように丁寧にする。


いつもならこれだけして後は室内で祈っているだけのつもりだった。


しかし今日は違った。


夜になるまで待ち、私はある人の家に向かった。

随分と探すのに苦労した。

まさかあの思い出の山の中にあるとは思ってなかった。


まぁ、だから知っていたのだろうけど。


素朴な木製の家だった。

玄関は鍵がかかっておらず、すんなり入れた私は一応声をかけた。


「お邪魔します。トヨさん。」

すると部屋の奥からヌッとトヨさんが出てきて

「よく来た。まぁ、上がれ。」と言ってくれた。

まるで来るのがわかっていたような返事だった。

言葉に甘え、村長の部屋に入る。


中はこじんまりとしていて、囲炉裏やかけてある焚き木が味を出すいかにも田舎の村の長らしい部屋だった。


トヨさんは棚らしいところから木製のコップを二つだし、囲炉裏にかけてあるやかんからとてもいい香りのするお茶を淹れてくれた。

「ありがとうございます。」

出してもらった茶を一口啜る。

美味い……。

玄米茶かな?

家では熱い茶は黒豆茶しか沸かさないのでわからなかったが、とにかく美味い。


「それで、お主。私の家を訪ねたいとは意外だな。」


いきなり本題だったが、私も特に余計な言葉を着飾る必要はない。


単刀直入に言った。


「今までの手紙……差出人は、貴方ですね?トヨさん。」


























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