第11話 幻の音

「レンが……!レンが……!!」


二人が泣きながら言ってきた。


落ち着け、まずは私が落ち着かねば、ことは大変になる。


「……レンがどうしたんだい?」

「……合格発表で、レンだけ落ちてしまって………。

それで、それでずっと落ち込んでたんですが、ここに来る途中突然先生に合わせる顔がないって言ってあの山の方へ…………。」


それはまずいぞ。


迷子になっている可能性が高いということか。

この時期になると、まだ早いが蛇や熊も目を覚まして来るかもしれない。


私は二人に


「ほかの大人にも言っておいてくれ!」


というと、急ぎ支度をする。


二人が返事をして駆け去って行った。


その場でレンの後を追いかけず、私に元へ報告に来たのはファインプレーだ。

お陰で早く行ける。


とにかく急がねば————————————





前に行ったあの思い出の山へと向かう。


さっきからノンストップで走り続けているから汗が止まらない。


30代半ばに本気のダッシュは身に応える。


山の中腹まできたが、未だにレンの姿形を捉えられない。


「おーい、レン—————!!」


見当たらないな………。


もしやと思いある場所へと向かう。


……いた。

レンが大の字になって寝転んでいた。


安心した私はレンのそばに腰を下ろした。


「ここは見晴らしが良いだろう?もっとも、もう暗くなっているが。」


「先生……。」

ようやく気づいたようだ。


「残念だったな。結果は。」

「先生、すみません……。」

「なぜ謝る?」

「せっかく、いろんなこと教えてもらったのに、結果につなげなくって……。

それなのに、わざわざこんなところまで探しに来させて…………。」

「何も申し訳ないことなど、ない。」

「いえ……。先生は優しいからそう言えるんです。結果も全て俺の出した責任です。今までありがとうございました。もう大丈夫です。家に帰ります。」


そういうと彼は私に目を合わすことなく立ち上がり走ろうとした。


「待て、レン!まだわからないだろう?」


三人が受けたところには、後期の受験のチャンスがある。


しかしレンは首を横に振った。


「後期の方は倍率がもっとすごいじゃないですか……。」

「勝負する前から諦めるのか?」

「先生……俺は先生みたいに、強い人じゃないんです。」


そう言い残し去って行った。


何も言えなかった。


最後の彼の発言が、幻のように私の脳内をいつまでも漂っていた。


私など、全然強い人間ではないというのに。

しばらく悩み悩んだ挙句、一つの考えが思い浮かんだ。


これは賭けでもあった。


そしてこんなことしか出来ない自分を恥かしく、また情けなく思う。


いつかの忠告を無視することになる。

大事な物事を他人任せ、いや死人に委ねるのだから。


しかし必ず届く。一番あの子達を理解している彼女の元へと。

私は家に帰り、封筒とペンと紙を用意した。

宛先を書かず、筆を走らせ始める。


「拝啓、愛しき妻へ。」











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