第4話 彼ら彼女らのごんぎつね

塾を再開して数日経ったある日。


「なー先生、ここはどうやって解くの?」


元気が自慢の生徒であるレンが質問してきた。


「ん?どれどれ…」


見ると、どうやら国語の物語文で苦戦しているようだ。


私はざっと文章に目を通し、解説を始めた。


「そうだね、レン。ここの第5行目に………」


実は私は国語の問題の解説をするのが得意ではなかった。


私の中学、高校時代の教師が酷かったのもあるが、一番の理由は回答が何通りも出てくるところだった。


当時国語ができなかった私はそれに困り、私はとにかく本を読み漁ることにしたのだった。


そうすると次第に点数は上がってきた。


しかし何故上がったのかは私自身にもわからないのである。


勉強のコツといえば良く国語教師に「本をたくさん読めよ。」と言う方が多かったが、まさしくその通りなのだ。


そんなわけで私は解説するのがとても不得意なのである。


しかし文香は違った。


彼女は国語嫌いな生徒にもしっかりと考え方を教え込み、自分オススメの本を貸し出して、国語ーいや、本の世界の導いていたのである。


そんな彼女の教え子だ。私の拙い解説も上手く飲み込んでくれたようで、


「うん!わかった!!」と元気よく答えてくれた。


そんな感じで復帰1日は何事もなく終わり、私は授業を終えた3人と雑談していた。


すると普段はおとなしいミサキが私に


「あの……先生、これ文香先生から借りてたんですけど……。」


それは、「ごんぎつね」であった。


小学校の教科書に良く載っていた名作だ。しかしここらの学校の教科書には何故かないのよと文香から私も聞いていた。


「わかった。預かるよ。」


私は本を受け取り、ミサキに聞いた。


「ミサキ、感想はどうだ?」


彼女は少し悩んでいるようだった。そうしている間に、ほかの二人が先に感想を言い始めた。


二人も読んだことがあるみたいだ。


「ごんがかわいそうだけどな、最初に悪いことしたのはごんだし……。なんとも言えない話だったな。」


「この後兵十が何をどう思い生きていったのかが気になる作品でした。」


前者がレン、後者がシンの感想である。


レンは自分が思った通りの感想を言ってくれ、シンはちょっと大人っぽい感想をくれた。


話を「悪いもの探し」の視点で見ると、まさしくレンの解答がベストだろう。


そして最後に残った彼女、ミサキはというと


「………………。」


考え込んでいるようだった。


彼女は思慮深く、それは国語ではとても大切な要素ではあるのだが、考えに深入りしすぎることが彼女の弱点にもなっていた。


彼女がとても優しいことも、残酷なエピソードであるごんぎつねには不向きなように感じた。


「そろそろ時間だ。また今度にしようか。気をつけて帰りなさい。」


と言って3人を帰路につかせようとした。


シンとレンが先に行き、残ったミサキにも声をかけた。


「ほら、暗くなる前に帰りなさい。」


すると彼女は私をじっと見つめ、


「ごんぎつねは……私にぴったりな作品でした。何をしたらよかったのか結局最後まで正解がわからなかった登場キャラの気持ち…………そんなところが。」


それだけを言って、去って行った。


私は何も言えなかった。


でも確かに、胸にチクリと痛みがきた。




次の日の朝、ポストに封筒が入っていた。


宛先なしの、あの封筒が———









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