第81話 三人での帰省

 その日は三鷹の自宅に帰らず、私の八王子の実家に泊まる。

 母はまだ仕事をして行くというので、私と智さんが先に帰らせて貰った。

 久しぶりの実家の台所は懐かしい感じがする。

 食器や道具は、元のままに置いてある。

 しっかりと保管されているけど、母は一人で炊事をしているのだろうかと思うと、なんだか涙が溢れてくる。

 食事が済んだので、母に電話をする。

「夜中になるかもしれないから、あなたたち、先に寝ていていいわよ」

 母はまだ仕事をするらしい。

「彩の身体もだけど、陽子さんの身体も心配だな」

「そうね、お母さんも、根を詰めるタイプだから…」

「明日は、もう少し手伝うようにしよう」

 ゴールデンウィークの後半は、母の手伝いで終わった。

 パートの人も増やしているそうだけど、それでも追いつかないみたい。


 だけど、半年もすれば、仕事も慣れてきたし、パートの人も増えたので、どうにか母も一段落できるようになってきたみたい。

 今年のお盆はまた3人で、名古屋の智さんの実家に行けるかな。


 私のお腹も8か月になり、大分大きくなった。

 会社にもマタニティ姿で行く。

 会社では私が智さんの妻である事は既に知れ渡っていて、私が智さんの部署に行っても、普通の事になってきた。

「課長、奥さんが見えましたよ」

 昼休みに智さんのところに行くと、吉田さんが連絡をしてくれる。

 智さんが、外で待っている私のところに来る。

「彩、どうした?」

「明日からお盆休みでしょう。それで、今日は定時で退社できないかなって思って」

「ああ、たぶん大丈夫だ」

「それじゃ、玄関で待ってます」


 もう直ぐお盆休みなので、智さんの実家に行く話をしたいのだけど、家でもできるし、会社のメールでもできる。

 態々、智さんの所に来ているのはやっばり会いたいから。


 智さんと「ミラカン」の店に行って、帰省の話をする。

 食事を終えて店を出ると、智さんの腕と私の腕を組む。

 すると、智さんの腕が私のお腹に当たる。

「彩、お腹が当たってる」

「子供がお腹を蹴るのが、分かります?」

「いや、分からない」

「ウフフ、そうですか」

「1日に何回ぐらい蹴るんだ?」

「1日に何回も蹴りますよ。あっ、今も蹴った」

「そうか、では早く帰って明日の準備をしよう」

 明日、母とは、三鷹の駅で合流する事になっている。

「あなた、その前に寄って行きません?」

「えっ?」

「だって、実家にいくと、そのぅ…」

「分かった、覚悟しとけよ」

「あなた、優しくしてね」

「彩は、優しくない方がいいんだろう」

「えー、失礼ね、この、この」

 私が智さんの腕を回してみるけど、多分智さんはなんともないはず。


 ラブホテルでお風呂に入ると、智さんが私の後ろから抱いてくる。

 智さんは私のお腹を撫でている。

「大分、大きいな。まだ大きくなるのか?」

「そうね、まだ予定日まで2か月あるから」

 今度は後ろから私の胸を揉む。

「あ、あん…」

 私のお腹が大きいので、後ろを向かせたまま智さんが愛してくれる。


 智さんは私が満足したのを確認して、ホテルを出た。家に着いたのは、時計の針が11時を回っていた。


 翌朝、スーツケースを持って家を出る。

 三鷹の駅のホームで待っていると、東京行きの快速電車がホームに入って来た。

 車内は立っている人が多少いるくらいだけど、平日に比べれば人は少ないみたい。

 母は座っていたけど、私が行くと、席を替わってくれた。

「お母さん、ごめんね」

「妊婦さんの方が大事よ」

「陽子さん、会社の方はどうですか?」

「どうにか、仕事が回るようになったわ。従業員も大分、慣れてきたし」

「それは良かった」

「一応、経営状態も黒字だし。取り敢えずは良かった」


 そんな会話をしつつ、東京駅に向かう。

 新幹線に乗ると、昨日も帰りが遅かったので、私は直ぐに寝てしまう。

 智さんと母は母の会社の事で、いろいろと話をしているみたい。

 私は智さんと母の難しい話を子守歌に、夢の世界に落ちて行った。


 緒川の駅に着くといつもの通り、お義父さんが迎えに来てくれている。

「なんか、この家に来ると落ち着くわ」

 母が言う。それは私も同意する。

 築年数が古いこともあるのかもしれない。

「あなたたち、またお参りに行ってくれば?」

 お義母さんは、安産の神様へのお参りへ行くように言ってくれた。

 私の流産の後、お参りにいったら、赤ちゃんを授かる事ができたから、お義母さんは神様のおかげだと信じているみたい。

「今日は、遅いし、彩も疲れているから明日行くよ」

「それじゃ、みんなで行きましょうか」

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