第80話 懐妊

 ラブホテルって、違う世界に来た感じがするのと背徳的な感じがして、いけない遊びをする気分になる。

 家ではお風呂も二人で入るのは恥ずかしいけど、ここだとなんだか、大胆になっても許されると思えるのが不思議。

 智さんも一緒にお風呂に入って、そのまま私を喜ばせてくれる時もあるので、智さんも興奮しているかもしれない。

 それにTVでは、女優さんのテクニックが勉強になって、智さんを実験台にできるのも、助かっている。

「彩、お腹が目立つようになってきたな」

「うん、大事な幸せが詰まっているの」

「ここも、ちょっと黒くなってきたかな」

「ねえ、元に戻らなかったらどうしよう」

「だって、子供の為には必要なものだろう。俺は気にしないよ」

「うふふ、子供が生まれたら、あなただけのものじゃなくなるから、今の内にお願い」

 最近、胸が張るようになってきた。母に言うと、そろそろお乳が出るのじゃないのって、言われた。

 私は智さんにいっぱい愛して貰って、眠りについた。


 眠っていると夢を見た。

 そこには母と子供が居て、子供は私だ。母は若い頃の母の姿をしている。

 母は私を抱いて守るように抱きかかえている。

 そうやって、母は私をずっと守ってきたんだ。

 私もこの子を守っていかなきゃ。

 私はお腹を守るように身体を丸めた。


 翌朝、目が覚めると軽くシャワーを浴び、ホテルの外に出ると、ファミリーレストランで朝食にした。


 ホテルで1泊した翌日、私たちはいつものように午前の新幹線で名古屋に向かう。

 名古屋から乗り換えて緒川の駅に着くと、これもいつものようにお義父さんが迎えに来てくれている。

「彩さん、身体の具合はどうだね?」

「ええ、もう大丈夫です」

「つわりは?」

「今は大分、収まってきました」

 私はゆったりした服を着ているので、お腹は目立っていない。


 家に着くとお義母さんが、

「あんたたち、伊置路神社に行ってきたら」

 伊置路神社は命と安産の神様で、私が流産した時にお義母さんが、お参りしてくれた神社みたい。

「ああ、それじゃこれから行って来る。彩はどうする?」

「私も行きます。きっとご利益があるでしょうから」

 伊置路神社は車でも行けるらしいけど、天気が良かったので、二人で歩いて行く事にする。

 歩くと30分弱で伊置路神社に着く。

「ここですね」

 前にも来たことがあるので、直ぐ分かった。

 お賽銭を捧げてから、子供の無事出産を祈って帰る。


 智さんの実家に帰ると、お義母さんが智さんに聞いてきた。

「陽子さんの会社は忙しいのかい?」

「みたいだ。まだスタートしたばかりで、今が肝心みたいだから。

 俺たちもゴールデンウィークの後半は手伝いに行かないと。

 一応は役員という事になっているから」

「そうかい、陽子さんも大変だね」

「社長だからね」


 私たちは3泊して東京に帰った。上りの新幹線はゴールデンウィークの真ん中だからか、車内は空いていた。

 帰った翌日からは、母の会社に行って手伝いをするけど、仕事はそれほど難しくない。

 発送先の段ボール箱に注文書を確認して、品物を詰めていくだけの単純作業で、パートの女性方と一緒に働く。


 お昼になると、会議室が臨時の食堂になる。

 お弁当を持ってくる人、近くのお店で買う人、様々だけど、私と智さんの分は私がお弁当を作って持って行く。

 智さんが気を使って、私に弁当を作るのは負担じゃないかと聞いてくれた。

「子供の事を考えると、自分で作った物じゃないと安心できなくて」

 なんだか、妊娠前はそう思っていなかったけど、子供がお腹にいるようになってから、自然とそう思うようになった。

「でもね、もう一つの理由は、こうやってお弁当を作る事に何んだか幸せを感じるの」

 だけど、二人分の弁当は重くなるので、智さんが持って八王子の会社に行く。


 お昼を食べていると、パートで働く人たちがいろいろと教えてくれる。

 私が真剣に聞いていると、パートの奥さま方も真剣に説明してくれる。

「彩さん、子供の物は、もう買ったの?」

「いいえ、何を買えばいいか、分からなくて…。ベビーベッドとか、ベビーカーも必要かなとは思っているんですけど…」

「あら、ベビーカーなら捨てようと思っていたのがあるから、あげるわよ」

 別の30代の人が言ってくれる。

「うちの子、幼稚園に入ったから使わくなって。貰い手もなかったから捨てようと思っていたの」

「本当に貰っていいんですか?」

「ええ、いいわよ。そんなに乱暴に使ってなかったから、今でもきれいよ」


「ベビーベッドって直ぐに使わなくなるし、買うと大変よ」

「ええ、それは聞きました。ですが、無いと困るかなと…」

「そんなことないわよ、大人のベッドでも大丈夫だし、クーファンとか使う人もいるみたいよ」

「クーファンって何ですか?」

 いろいろなお話が聞けるのは助かる。


 智さんは母に仕事のイロハを聞いている。

「陽子さん、この封筒は?」

 智さんが入れている段ボール箱の中に、発送品と一緒に封筒を入れている。

「それは、購入してくれた人へのお礼の手紙。さすがに、手書きは無理なので、印刷物だけど、一応有難うという気持ちと思って」

「封筒の色が違うのって、何か理由があるんですか?」

「白が初めての人、ピンクが2回目の人、青が3回目の人、緑は4回目以降の人って区別しているの。毎回同じだとつまらないでしょう。

 だけど、さすがに4回目以降は同じでいいかなと…」

「なるほど、そうなんですね」

 智さんが感心している。

 母は娘の私が言うのも何だけど、意外と細かいところに気が付く。

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