第63話 女房の尻

 きっと、お義母さんと母は、既に台所で朝食の用意をしているだろう。

 嫁として、ぐだぐだしていると母にも恥をかかせる事になるので、私は着替えると直ぐに下に降りて行く。


「おはようございます」

「おはよう、まだ寝ていてもいいのよ」

 お義母さんが言ってくれるけど、その言葉に甘える訳にもいかない。

 朝食の支度が出来た頃に、お義父さんと智さんが来た。


「おはようございます。丁度準備が整ったところでした」

 母がお義父さんと智さんに言う。

 母は今はすっぴんなのに、その肌は白く、娘の私から見ても50代には見えない。

 自慢でもあるけど、女としては母に嫉妬もする。

「おはようございます。すいません準備までして頂いて」

「いいんですよ、泊めて貰ったお礼です」


 私たちが朝食の準備をしている間の過ごし方って、パターン化している。

 お義父さんはテーブルの前に座り、地元新聞を読んでいて、その前には、週末のスーパーのチラシが置かれている。

 後で、チラシを見てみようっと。

「すごいチラシだね」

 智さんも、そのチラシを見つけたみたい。

「母さんが、チラシの多い新聞がいいと言うからな」

「うちは新聞なんて取ってないけど」

「東京では、チラシはないのか?」

「あるけど、見ないし、それに後々ごみになるからね。新聞社が回収してくれるならまだいいけど、やつら配るだけ配って後は知らんぷりだし。

 今は偏向報道ってあるらしく、新聞の中身もそうそう信じられないから。

 お金を出して、記者の嘘を聞くっていうのもね」

「そうかもしれんな。今はインターネットの時代だからな」


「はいはい、難しい話はそれぐらいにして、朝食にしますよ」

 みんなで食事にするけど、こうゆうのって憧れだった。

 お父さんはいつもいなくて、食事は私と母の二人だけだったので、話もなかった。

 だけど、ここには会話のある食卓がある。

 こういうのを暖かい家庭って言うのだろうな。

「今日は大高のデオンに行こうと思う。平日だから空いているだろう」

 お義父さんが今日1日の予定を言う。食事をしながらの家族会議みたい。

 その案は、お義母さんの是非で可決してしまうのも面白い。

 お義母さんが「NO」と言えば、お義父さんは別の提案をし、「YES」と言えば、お義父さんの提案通りになる。

「新幹線から見えるデオンですか?」

「そうそう、あそこだ」

「それじゃ、お昼はデオンか、その近くのお店でいいわね」

 どうやらお義父さんの提案は可決されそうだ。


 お義父さんの運転する車で大高デオンに向かう。ここからは30分くらいかかるみたい。

 夜から雨が降っていたけど、出かける時になってもまだ降っている。

 雨が降ると湿度が高くなって、暖房を入れると車の窓が曇る。

 私はそれを手で拭き去るけど、すぐに曇ってしまう。

 私は窓ガラスと格闘していたけど、そのうち大高デオンに着いた。平日で雨だからなのか、30分もかかっていないような気がする。

「屋根のあるところに停めるから、ちょっと待っていてくれ」

 立体駐車場の方に行くと、雨の日はみんな考える事が一緒なのか、こちらは少々混んでいる。

 そのうち、空いたスペースが見つかったので、そこに車を停めた。


 店の中に入ると、お義父さんが待っていると言う。

「我々男性陣はここで待っているから、女性陣は適当に見てくるといい。待ち合わせは1時間後でいいか?」

「それじゃ、そうさせて貰います」

 私を含めた女性陣は、店内に向かった。


 お店を見ていると、既に春物がセールになっている。

「ねぇ、お母さん、これどう?」

 私は春物の白系ワンピースを取って、母に見せた。

「あら、いいんじゃない」

「そうねえ、彩さんに似合うかもね」

 お義母さんも褒めてくれた。

 でも、セールと言いつつも、いいお値段がする。

 私が迷っていると

「買っちゃえば」

 お義母さんが背中を押してきた。

「えっ、でも……」

 値札を見ると、12,800円とある。

 学生の私にとって、1万円を超える買い物は、ハードルが高い。

「いいわ、私が買ってあげる」

 お義母さんが買ってくれると言う。

「えっ、それは悪いです」

「いいのよ」

 お義母さんは、ワンピースを持って、レジの方へ行く。

「お義母さん、どうもすいません」

 母もお義母さんにお礼を言っている。

「すいません、どうもありがとうございます」

 私も続けてお礼を言うと、お義母さんは

「いいのよ、歳を取ると、あんまりお金を使わないから。孫に買ったと思えば同じよ」

 私は孫みたいな歳だから?


 私は買って貰った服が入った紙袋を持って、智さんたちの居る休憩スペースに向かった。

「彩、どうした?」

 私だけ、帰ってきたので、智さんが聞いてきた。

「うん、春物を買ったんだけど、持っていると荷物になるから、持っていて貰おうと思って」

 私は智さんに荷物を渡すと、直ぐに母たちの居る場所に戻った。


 それからも、女性3人の買い物は続き、お義父さんと智さんの居る休憩スペースに戻ったのは、きっちり1時間後だった。


「あなた、今からスーパーで食材を買うので、これを車に入れてきて欲しいんだけど」

 智さんに私からお願いする。

「ああ、分かったよ」

 智さんとお義父さんの二人が、私たちが買った袋を持って、車を停めた駐車場の方に向かう。

 私たちが食品売り場で食材を買っていると、車に荷物を置いた智さんたちが、戻って来た。

「今日の夜は味噌カツにしようと思うけど、いいかしら」

 既に豚カツ用の肉が買い物かご入っているので、今から「NO」と言われても困る。

「「ああ、いいとも」」

 良かった、二人とも豚カツで良いみたいだ。


「お昼はどうしましょうか」

 お義母さんが、お義父さんたちに聞いている。

「デオンの中の店に行くか」

「でも、高いでしょう」

「この近くにあるとしたら、ラーメン屋、お好み焼き屋、うどん屋、あとはチェーン店のファミレスぐらいかな」

「お好み焼きが食べたい」

 私が言うと、お義父さんとお義母さんが

「彩ちゃんがそれで良ければ、お好み焼きにしようか」

 と、言ってくれる。

 温かいものをみんなで囲んで食べるのって、心も暖まる。

 こういう家族っていいよね。


 家に帰ると、早速、味噌カツの調理になる。

 お義母さんが言うには、カツに味噌をかけるだけではだめだそうで、味噌カツ用のタレを作る必要があるらしい。

 私と母はお義母さんの作る味噌カツ用タレの作り方を教えて貰う。

 名古屋飯も奥が深い。

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