第47話 高橋

「おはよう」

「あ、あっ、いや、見ないで下さい」

 私は昨夜、智さんに抱かれて、そのまま眠ってしまったので、身体に何も着けていない。


 智さんは私を抱きしめてくれる。

 私の身体の力が抜けていく。また、私はこの人を受け入れてしまう。


 私は手で胸を押さえていたけど、智さんはその手を外して、先端にそっと口付けをしてくる。

「だめです。朝だもの」

「そうだな。起きるか」

「ええっー、ほんとに?」

「なんだ、続きをした方が良かったか?」

「もう、ばか」

 そんなの嘘に決まっている。

 また、私を誘ってほしい。

 私は智さんの腕の中で、幸せを感じた。


「フンフン♪」

 朝から、なんだか気分がいい。

 私は、鼻歌を歌いながら、朝食を作る。

 今日は、いつもより美味しく作れそうな予感がする。


 朝食を食べながら智さんが聞いてきた。

「彩、お盆休みも今日で終わりだから、どこか行こうか?」

「出歩くのも暑いので、家でゆっくりしましょう」

 もしかしたら、昼もしようなんて言わないよね、もし、言われたらしてもいいかな。


「東京の気温は、35度まで上がる見込みです」

 TVで天気予報を聞くと、外に出るのが嫌になる。

 これは家の中でする事がなくなってしまう。お盆なのでジムも休みだったはず。


 洗濯が終わったので、智さんの横に行ってみる。

「ね、どうします」

 直接、「する?」って聞けない。

「今日は家に居るんだろう」

「だから、家でどうしますかって事です」

「うーん、どうしようか。これじゃ、引き籠りになってしまうな」

「たまには、引き籠りでもいいです」

 私は鈍感な旦那さまの膝の上に乗ってみる。

 智さんは私の身体を両腕で支えてくれて、口付けをしてくれる。

 朝もしたから、智さんも大変だよね。

「このままでいい。今日はこのまま」

「何だ、甘えているのか」

「甘えて悪いですか。旦那さまだもん」


 私は智さんに抱きついたまま、眠ってしまったらしく、気が付いたらベッドで寝ていた。

 夢の中で見たのは、いつものようにお父さんの夢なんだけど、そのお父さんが智さんになっている。

 智さんはお父さんじゃない。旦那さまなのにと思うけど、でも、夢の中に出てくるお父さんは、いつも智さんの顔になっている。


 目が覚めると智さんはリビングに居た。

 私はベッドから抜け出して、リビングに行くと智さんの横に座って甘える。

 そうやっていると、智さんは旦那さまなのか、それともお父さんなのか、自分でも分からなくなってくる。

 でも、頭の中は理解している。

 この人はお父さんではなくて、私の愛する旦那さまなんだ。

 そうやって、1日を家の中で過ごした。


 お盆休みも終ったので、智さんは出勤するけど、私は学校がまだ夏休みなので、家に居る。

 智さんがスーツに着替えるのを手伝うけど、最近はクールビズとかいって、ネクタイをしないので、ちっょとだらしない。

 やっぱり、男の人のネクタイ姿っていいよね。


 智さんが会社に出勤したら、掃除と洗濯をして、布団を干すけど、ほんとに主婦になった気分になる。

 ひと段落するとジムに行き、ジムが終わると、今度は八王子の実家に行く。

 母が輸入のお仕事をしているので、そのお手伝いをするのだけど、母の元に居るとなんだか、自分がお嫁に行った事を忘れてしまう。

 でも、夕方3時くらいになると、実家を出て、三鷹に戻り、駅前のスーパーで夕食の材料を買ってから、家に帰る。

 私の休みの日はそれで終わる。


 智さんが帰ってきて、二人で食事をするけど、智さんが、元お父さんが転勤になるという事を話してくれた。

 母とは離婚したんだし、今更、私がどうのこうのと言える立場ではない。


「そうですか」

 それ以上、何を言えというのだろう。

 もう、お父さんはお父さんの人生を歩んでいる。

 私と交差することもないだろう。


 智さんが私の昼間の過ごし方を聞いてきたので、ジムに行って、それから実家に行くと教えてあげた。

 私だって、家で昼メロを観ている訳ではありませんよ。旦那さま。

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