第78話 僕とボク -08
八
ボクは『私』であった時のことをみんなに謝った。
みんなはいいよって言ってくれた。
だけど、一人だけその返事を聞くことが出来ない人がいた。
そもそも、謝ることも出来なかった。
遠山英時。
ボクが最も苦しめた男の子。
ボクが好きになったばかりに、苦しめてしまった男の子。
ボクのせいで、彼は少年院に入ってしまった。
その彼は、言っていた。
ごめんな、と。
ボクが謝るべきなのに。
彼がそう謝った。
ボクは後悔した。
『私』であった時を。
『私』は、弱く、醜い女だった。
生きることに絶望し
死ぬことを渇望し
他人を貶め
自分を保ってきた。
でも、その『私』は確実に『鈴原佑香』だった。
二重人格ではない。
ボクの弱い部分が『私』なのだ。
いや、違う。
『ボク』も『私』も、全部『鈴原佑香』だ。
だから弱いのは『鈴原佑香』だ。
『鈴原佑香』が強くならなくてはならない。
そのために。
『私』は。
――『ボク』は。
『鈴原佑香』は――アメリカに行くんだ。
散々、人に後押しされ。
散々、人に支えられて。
やっと出来た決意。。
髪を犠牲に決意した。
きっかけがなければ変われなかった。
だけど、きっかけがあって変えられた。
相変わらず、毎日辛い治療は続いた。
点滴は痛かった。
薬は苦かった。
食事はまずかった。
何もかもが、苦痛だった。
だけど、耐えられた。
ボクは強く思っていたから。
ボクが思っていたことはただ一つ。
――『生きたい』。
そうして毎日を過ごし。
ついに――アメリカに出発する日が、やってきた。
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