第27話 ボクとデートと観覧車と『希跡』 -03

    三



「あはははは」

「あはははは」



 数分後の話。


「……今のは、なかったことにしようよ」

「僕も、それは激しく同意するよ」


 ボク達二人は顔を真っ赤にさせて項垂れていた。

 教訓。

 メリーゴーランドは、高校生になって乗るものではない。周りの視線が、とても痛かった。

 ……ただ、馬に乗った英時が王子様のようだと思ったボクは、いけない子だろうか。


「それじゃあ次はどうしようか?」

「ん、ちょっと心折れ掛けたけど、頑張ろうか。どうしようか? ただ、さっきみたいな失敗はしたくないし……右回りで行ったら、次は何?」

「えっと、次は……あ」


 まるで電池が切れたロボットのように、英時の動きが止まった。


「どうしたの? ……まさか、またメリーゴーランドだとか?」

「いや、違うよ……だけど……」


 英時の歯切れが悪い。


「本当にどうしたの? 次のアトラクションが、そんなにひどいやつなの?」

「いや、ひどいわけじゃないけど。っていうか、むしろ……」

「むしろ?」

「……最低でごめんなさい」

「何が?」

「僕が」

「何で?」

「次のアトラクション……お化け屋敷なんだ」

「……あぁ」


 だからか。

 文化祭でボクは、とんでもない失態をしてしまった。

 お化け屋敷。

 だって怖かったんだもん。

 その時に、英時に抱きついたり、というかしがみ付いたり、変な声を出したり……「きゃあ」なんて、何年ぶりに言ったんだろう。

 というわけで、お化け屋敷はスルーすることにした。仕方のないことだ。


「次は?」

「えっと……コーヒーカップだね」

「ふーん」


 色々ツッコミをしたいけど、あえてスルー。


「ん。じゃあ、そこに行こう」

「うん」


 数分後、コーヒーカップへと到着。

 早速、乗ってみた。


「……ねぇ、英時、率直に感想を口にしていい?」

「何?」

「これ……すっごい楽しいんだけどっ!」


 はまった。

 ぐるぐる回るだけなのに、何でこんなに楽しいんだろう。


「やっほー。たのしーっ!」

「うん、そっか。じゃあ、もっとスピード上げる?」

「んん、お願い! あれぐらいまでっ!」

「オッケ……って、え?」


 ボクが指している方向を見て眼を丸くする英時。無理もない。だって、中に乗っている人の顔がぶれて横長になるくらい高速で回っているのだから。かろうじて中に乗っている人の人数が三人だというのは判るけど。


「高速でお願いっ!」

「……」


 だが何故か英時は少し呆けた様子でそちらを見ていた。


「……? どうしたの」

「あ、うん。何でもないよ。……それじゃあ行くよ。それ!」


 彼は口元を緩めると、中央のテーブルを勢いよく廻し始めた。

 目の前の景色は真っ白になった。

 ぐるぐる、ぐるぐると高速で回る。

 そんなこんなをしている内に時間が来てしまったのだろう、コーヒーカップの回転はどんどん遅くなり、そしてついには止まってしまった。


「あぁ……終わっちゃったね」


 どこかぼーっとした様子の英時。彼もそこそこ楽しめただろうか?


「あー。楽しかった。英時はどうだった?」

「楽しかった。意外とコーヒーカップって楽しめるもんなんだね」

「うん。ボクも驚いたよ」

「メリーゴーランドとは大違い」

「……うん。忘れようよ」

「……そうだね」


 あれは人間強度が高いか、もっとラブラブしたカップルが乗るものだ。

 後悔はそこそこに、ボクはパンフレットを広げた英時に訊ねる。


「順番に行くと、次は何?」

「外回りだと、ジャングル探検隊だな」

「……名前ダサいけど、そこに行こう」

「でも、地図で見る限りちょっと遠いよ。大丈夫?」

「大丈夫だよ。それに遠いなら、途中でちょっと休憩しよう」

「賛成」

「よし。じゃあ行こうよ」


 ボクは、笑顔でそう答えた。

 やっぱり、予想は当たっていた。

 絶対、今日はとても楽しい一日になる。


 だって、もう――とても楽しいのだから。

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