第11話 4月1日(木)美紀がやってきた⑦
美紀は僕を睨みつけてこう言った。
「たしかにあたしは喫茶店か洋菓子店を持ちたいって夢がある。パティシエになりたいっている夢がある。でも、見方を変えればそれしかないんだ。それに、地元の摩周から出れるなら、釧路でも札幌でも、どこでも良かったんだ。ただ高校に行って、その後パティシエになる為の学校に行って、それで、ただ店を開いて、それだけしか考えてなかった。だからお父さんは反対したんだ。『パティシエになった後はどうする?店を開いた後はどうする?』ってお父さんに聞かれた時にあたしは答えられなかった。今でもそうだ。考えるのが怖いんだよ。パティシエになった後、店を開いた後に何をすればいいのかを聞かれたら全然答えられないんだ。怖いんだよ。ある意味、変な目標だけを持った厄介な女だ。そんな女なんだぞ、このあたしは」
「でも目標があるだけマシ・・・」
「だからふざけるなって言ってるだろ!お前よりタチが悪いんだよ、あたしは。目標に突き進むしか出来ない奴だ。途中で道を変える方法なんてホントに分かんないんだよ。あのさあ、猛、適当ってことは、別の言い方をすれば、どんな方向にでも進む事が出来るんだぞ。極端な話かもしれないが、世界一有名な小説家になるかもしれない。宇宙飛行士になるかもしれないし、世界で初めて100メートル走で8秒台をたたき出す世界最速の単距離選手になるかもしれない。世界最強のスナイパーの名を欲しいままにした冷血無比のような殺し屋、超一流大学の有名な教授、もしかしたら世界的ミュージシャンになるかもしれない。秘密道具のような物を作りだして、あの大発明家のエジソンも霞んでしまう位の世紀の大発明をして歴史に名前を残す事も可能なんだぞ。だから、猛の方がすごいんだ。お前は自信を持てよ。あたしは、1つしか知らないんだよ。」
「・・・・・」
「美紀ちゃん、それ位にして。お願い!ね。猛もほら、ね」
「・・・・悪い、みっきー、熱くなりすぎた。ごめん」
「あ、いや・・・僕の方こそ、下手に落ち込んで・・・済まなかった・・・」
「・・・あ、でも、もう1つ、目標があったなあ」
「え、何?何?教えて?私も知りたいなあ」
「えーっと、その~、つまりだな・・・」
ここまでいうと、美紀は下を向いてしまった。何か手をスリスリして、足をモゾモゾさせて、さっきまでの美紀とは別人のようになってしまった。
「あの~、美紀ちゃん・・・」
「あー、分かったよ・・・猛!」
「ハイ!」
そして顔を上げたかと思うと、真っすぐ僕の顔を見てこう叫んだ。
「私を、この坪井美紀を、猛のお嫁さんにしてください!!」
「・・・・!」
「・・・・!」
その一言で、僕と姉さんは二人とも一瞬固まってしまった。そして姉さんは顔を真っ赤に、僕は顔を真っ青にしてこう叫んだ。
「「ふざけてんじゃあねえぞ、コラあ!」」
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