No. 009 / Negative 03 「控えめな鼓動」

必要のないものを取り払っていくと、命の前で立ち止まる


汚いものを拒み続ければ、自ずと心は空っぽになるだろう


極度のミニマリストは呼吸にさえも手を伸ばそうとする



嫌いな相手が凄惨な運命を辿ろうと関心がないように

自分の将来を大切に扱えない


取り繕って好かれるよう努めるくらいなら

素の自分を見せて嫌われたいと願う


あるいは、奴隷であったほうが社会貢献できたのではと安易に考える

多様な自由が保証されてしまうから、迷子は道を彷徨う



いつか死ぬのなら、今日でいい

無為に呼吸を続ける理由がない


価値のない延命措置に多くのものを浪費してしまう


自分の命の使い方に絶えず惑い続ける



生の命題に明確な答えはない

どこにも辿り着けない心は絶えず、底無しの死を覗き込む


事件で亡くなるのがもし自分だったら――という消極的な願望

不謹慎だと理解してなおマイナスは巡る

だからこれは、倫理観の問題ではない

個人的な死生観に傾いている


恋に恋する様と、自殺に焦がれる様は、どこか似ているかもしれない



心臓は拒んでいる

一方で、心は喪失を望んでいる


自分を大切にしろ、と言われるほどに

投げ捨ててしまえ、と内側から声がする


消えることを考え始めると体温は逃げていくらしい


脈動の生々しい主張に違和感を覚える



命は大切だ

けれど人格は含まれない


他人を傷つけてはならないのだと言う

だから、選べるのは自分を擦り減らすことばかり


孤独死

あるいは、死期を悟られまいとする野良猫の如く

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