147 『女神の』
「さて、話は変わりますけれど、私のこと、どう見えますか?」
「どうって、普通に可愛い女の子にしか見えないが……?」
いきなり何を言い出すのかと思いながらも、正直な感想を伝える。
目の前にいる少女、ヘル。
氷のように輝く銀の髪を俗に言う縦ロールに整え、青白い素肌の上に、質の良さそうな黒いゴシックドレスを身に纏う少女。何より目を惹くのは、ルビーのような、はたまた鮮やかな血のように真っ赤な瞳。
「なんというか、そうだな、貴族の御令嬢って感じだな」
その姿からは、気品とでもいうような、優雅な余裕が感じられる。
レイアや白蛇なんかも一応令嬢という括りには入るのだろうが、気品や優雅さなんてものは全く感じない。けれど、目の前のヘルからは人の上に立つ風格とでも言うような、まさしく貴族的な雰囲気があった。
「可愛い女の子、貴族の御令嬢。ふふっ、お上手な口ですわね」
「いや、世辞なんかじゃないぞ。出来ることなら、その脚に踏まれたり、膝枕をされたいと思うくらいには魅力的だと思ってるからな」
「膝枕、ですか。あらあら、そんなことを言われるなんて、全く予想外ですわ」
嬉しそうに笑いながらも、どこかその声が急に冷たくなったような雰囲気を感じる。
「あー、悪い、ちょっと、欲望に忠実に言い過ぎた」
流石に、初対面の異性に言うようなことじゃなかったか……。
なんて、俺が思っていると、ヘルは唐突に立ち上がる。そして、おもむろにそのスカートを捲り上げた。
「これでも、可愛い女の子といってくれるのかしら?」
そう言って見せ付けるように晒されたスカートの中身は酷いものだった。
――それは、腐り、爛れ、変色していた。
まるで形を保っているのが奇跡と思えるような状態の二本の脚が、そこにはあった。
「私はヘル、冥府の女王にして死の女神。腐り落ちる忌まわしいこの肢体を見ても、まだ膝枕されたいだなんて思いまして? してほしければ、いくらでもしてあげますけれど?」
「流石に、ちょっと驚いたぞ」
いきなり立ち上がりスカートの中の脚を見せ付けてくれるなんて。
それに、それがこんな風に腐り落ちているなんていうのも予想外だった。
「けど、俺の見立ては間違ってないって思うな、やっぱり」
「えっ、何を……」
戸惑うヘルを無視して、俺はその脚を注視する。
確かに、酷く荒れている。けれど、形は保たれているのだ。そして、腐っていることを気にせず見てみれば、それがどれだけ素晴らしいものかがよく分かる。
「さて、それじゃあ、ちょっとお手を拝借。答えあわせをさせてもらおうか」
スカートを摘んだままのヘルの右手を、上から覆うように握る。
俺の見立てが正しいかどうか。文字通り、この一手で分かるはずだ。
「これは、そんなまさか、嘘……!?」
「あー、これは流石に、本当に予想外だったな」
腐っていても、その元となる脚は相当に美しい。
そこまでは、正しかった。が、俺の予想を超えたものが、眼前には広がっていた。
俺の力によって『人の脚』へと変化をしたヘルの両脚は、傷んでいたことが嘘であるかのように、その本来あるべき姿を取り戻していた。
「これは、凄い……」
その腕や顔と同じく、白を通り越して青白いような神秘的な肌。
無駄に着きすぎた肉は一切なく、さりとて細すぎるということもない魅惑的な肉付き。
そして、なによりありえないと思えるその形。人間であれば、本来脚には歩くお陰でに筋肉がついたり、ある程度形が機能的になるはずなのに、それが無いのだ。
ただただ、美しい。均整の取れた黄金比とでもいうような美しい脚の形。美脚の理想とでもいうような、まさに人にありえざる、人智を超えた女神の脚というべきものだ。
「ここまで素晴らしいものを拝めることになるとは……」
ある程度は、美しく魅力的な脚になるだろうことは傷んでいた脚を見ただけでも分かっていた。だが、ここに至ってヘルの脚は俺の想像以上に美しいものだった。
「さて、返答がまだだったな。膝枕の件――ぜひともお願いするぜ!」
「な、なんというか、すごいわね、あなた……」
呆れとも感嘆ともいうような表情で固まるヘルに、先ほど彼女が語った約束どおり膝枕を要求する俺だった。こんな天上の脚の膝枕なんて、今を逃せばもう味わうことなんて出来ないのだから。
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