126 『儀式』

「ここが、終点、なのか? なんか、えらく雰囲気変わったな……」


「あぁ、そのようだな。だが、ここで何をしろというんだ?」


 進んだ先に待っていた場所は、これまでとはがらりと変わっていた。洞窟の中だというのに壁や天井、床は真っ白な色をしている上につるりと磨かれ、まるで一面を大理石に覆われたような空間である。だが、その中心に白い台のようなものがある以外には、何もない。こんなところで何をすればいいんだろうか?


「ひゃうっ!?」


「ん、一体何を、っつひっ!?」


 いきなり声を上げた白蛇に声をかけようとしたところで、同じように俺も声を上げてしまう。何か冷たいものが、いきなり首筋をなで上げたような、くすぐったいような感覚。


『くふふ、なかなかよい反応じゃのぅ』


 そう言って、俺達の前にそいつは現われた。


 白いの着物に身を包み、スラリとした身体つきをした、その存在。

 着物から除くその身もまた白く、まさに純白といった言葉が似合う姿だ。



『よくぞここまでたどり着いたのぅ』



 白い着物に身を包んだそれは、妙齢の女性の声で楽しげに言葉を紡ぐ。当たり前のように、ごく普通に喋る彼女に、けれど俺は違和感を禁じえない。


「いや、いやいやいや、ちょっと待て……」


 何故なら、そう、彼女には手足がなかったから。いや、そういう問題ではない、手足があるとかないという次元ではなく、俺たちとは決定的に違ったのだから。


「なんで蛇が着物着てんだよ……!?」


 そこにいたのは、まごうことなき蛇だった。


 レイアや変化した白蛇のように、下半身だけが蛇というわけではない。

 俺達が先ほど逃げ出した大蛇よりは小さいが、人間サイズの大きさを持った白い蛇が、どうやったのか真っ白な着物を着て、その場に立っているのだった。


 白い着物の首元から覗く同じく白い鱗で覆われた蛇の頭、真っ赤な瞳をしたその白い蛇は、驚く俺の姿をみて、やはり楽しそうに笑う。


『かははっ、いやはや、物怖じせぬものよのぅ! 妾の姿を見て、恐れもせずにそのようなことを叫ぶとは! お主、本当に人の子かえ?』


「あー、一応、人間だと思うんだが……」


 ツッコミするのは性分なんだから仕方ない。


 あと、俺は一応人間、でいいとは思うがどうなんだろう? 代々半分は人外の血を引いてるとはいえ、人間の身体に変化させた相手から生まれているわけではあるし。


「というか、お前はなんなんだ?」


『む、妾か。ふむ、そうじゃな、なんと説明すればよいか……。言うなれば、この地の化身とでもいうべきかのう?』


「まさか、あなた様は、始祖様ですか……!?」


 ここまで固まっていた白蛇が、いきなり声を荒げて問いかける。一体何をそんなに興奮しているんだろうか?


『ふむ、まぁそうといえばそうではあるし、違うといえば違うと言えような。まぁ妾のことなど今はどうでもよい、それよりも、ここまで来たのじゃから、そなたらの儀式を始めようではないか』


「儀式? そなたらって、別に俺は……」


『む、一人で出来るわけがなかろう? だからこそ、そなたらは二人でここまでの障害を越えてきたのであろう、それを認めさせるために?』


「あ、あの、始祖様、仰っている意味が……」


 なんだか色々と俺達とこの始祖?との認識には違いがあるらしい。そして、そんなことをお構い無しに、白い蛇は告げる。ここで行われる儀式が、なんであるのかを――、


『とにかく、始めるぞ、儀式を! そう、人と蛇、異なる者の絆を紡ぐ、婚礼の儀を!』


「えっ?」


「はっ?」


 ……いや、なんでさ? 婚礼って、マジ?

 なんというか、また訳の分からないことになりそうである。

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