114 『大切な相手』

「さて、もういい頃合かな?」


 いつまでも続くかに思えた不毛な戦いは、唐突な一言で終わりを迎えることとなる。


 そう言ったルキは、これまでかわし続けたあたしの尾をその手で受け止める。そして、そのまま恐ろしいほど強い力で軽々と放り投げた――あたしの身体を。


「えっ?」


 空中に投げられた。


 そう思ってすぐに体勢を整えようとするができない。身体が動かないのだ。けれど、おかしなことにあたしの身体は地面に落ちない。


「なによ、これ?」


 全く身動きの取れない状態。空中に両手を広げた格好で、まるで貼り付けにされたかのようにあたしは固定されていた。


「うん、まずは説明が必要だよね」


 先ほどと変わらずのんびりとした様子でルキは頷く。そしてそのまま楽しげに語りだす。


「実はさっきからボクはただ逃げてたわけじゃない、ってことなんだよね」


「それがなんなのよ」


「はは、焦らない焦らない。簡単にいうとこのあたりにちょっとした力、まぁ魔力とはちょっと違うけど、似たようなものを撒いていたんだよね。それで、いい具合に溜まったから、わざわざ逃げる必要がなくなったってわけさ」


「なるほど、姑息な真似ね。そんな手段を使わないと、戦えないなんて、恥知らずもいいとこだわ」


 だけど、納得は出来た。どうしてあんなにも逃げ続けていたのか、それがこんなセコい目的だったとは、思いもよらなかったけれど。


「あぁいやいや、早とちりしないで欲しいな。ボクは別に勝負に勝つためにわざわざそんなことをしたわけじゃないよ。そもそも、勝つだけならそんなことする必要もないし」


「だったら何がしたいのよ、あんたは?」


 その問いかけに、ルキは満面の笑みを浮かべて答える。


「見たいんだよ、キミの力が」


 そう言った瞬間、唐突に辺りが真紅の輝きを放ちだす。


「えっ、なっ!?」


 何かが身体中から注ぎ込まれる感覚。まるで無理やりに水を飲まされるように、身体中が張り裂けそうなほどに何か得体の知れないものが、あたしの中に注がれていく。


「苦しいだろうけど、我慢してね? 今、キミに注がれているのは神力[しんりょく]。一言で言えば、神様の力ってやつさ。本来、唯の魔族になんて合うわけがないんだけど、キミならきっと大丈夫だと信じてる、その力をちゃんと自分のモノにできるってね?」


「がっ!? なっ、ぐっ……!?」


 張り裂けそうな痛みが身体中を苛んでくる。


 何を言ってるか分からない。そもそも、聞こえてすらいないように思える。けれど、何故か頭に響くようにルキの語る言葉の意味だけは伝わってきた。


「あぁあぁあああああああ……!?」


「んー、なかなか合わないねぇ。あぁそうだ、大切な相手のことを考えるといいよ。うん、昔から、そういう想いの強さは成功を導き出すものだからね」



 ――大切な、相手?



 そう考えて、思い浮かぶのは、冴えない男。けど、あたしをしっかり見てくれた。


 一緒にいると楽しい。それに、あたしを守ってくれた。


「おぉ、いい感じいい感じ、その調子だよ」


 何かが聞こえる。けれどもう何も気にならない。


 あたしは、何をしていたんだろうか?

 あたしは、何をしたいんだろうか?


 苦しい。助けて欲しい。そうだ、あのときみたいに。


 あたしが、囚われていたときも、あいつが。


 会いたい。

 そうだ、会いたい。


「あぁああああああああああああァァァァアアアアア……!?」


 会いたい。会いたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいたい。あいタイ。アイタイ。アイタイ。アイタイアイタイ。アイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイアイタイ――、




――彰ニ、会イタイ。



 そう、願った瞬間、ふっと、なにもかもが軽くなった。痛みも、つらさも、苦しさも、そしてなにより大きい寂しさも。ただ、何か、とても大きな物に飲み込まれたような気がする。


 そして、何でもできるような全能感が溢れるとともに、あたしの意識は解け消えて――、




―――――――――――――――――――――――――――――――――


アレな切りかたですが、これにて3話終了となります。

無駄に長かったり、色々粗の多く申し訳ありません。


なお、ここまで読んでいただいたなら分かると思いますが、第二部は別名レイア編です。

本編である一部で入れられなかったレイアの設定とかをひたすら盛り込んだ内容となります。

ヒロイン扱いは、まぁそれは、うん。。。

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