083 『工事費無料、即日導入可能』
「主さま、主さま、この床暖房凄いです! 冬にあったかいのは勿論、夏には涼しく出来るみたいですよ!」
「あー、確か水冷のやつだったか? 床に水か何かを通すとかって、聞いたことがあるな」
張り出された仕組みを見て、ふむふむと、霜と一緒に技術の進歩に感心してしまう。
意外というべきか、予想通りというべきかはさておき、霜は勿論のこと、俺もこの住宅展示場を見学することを楽しんでいた。普段見ないものを見るというのは興味がそそられる、というのは勿論あるのだが。
「うーん、どうやったら、うちの中で再現できるのでしょうか……?」
俺が見ていて楽しめる一番の理由――それは、この展示場にある機能を我家に導入することが出来るからなのである。それも家の化身である霜の力を使う為に、工事も準備も必要なし、即日無料で可能というのだから、見ていくのにも力が入る。
「うーん、床を冷やすことで、様々な利点が出てくるというのは理解できるのですが、流石にパイプを床の下に張り巡らせるのは難しいですし」
「確かになぁ。いくら霜が家の化身だからって、床の下まで換えるのは無理があるか」
もっとも、いくら霜といっても何でもかんでも見たものをそのままに、すぐに導入できるというわけではない。しっかりとその理屈や原理を理解して、なおかつ本体である家を大きく変えすぎない範囲での変化が可能なのだから。
今のところ、見てきて導入できそうと思えたのは、壁の組み合わせによる揺れの軽減、壁の中にある素材部分を変化させての断熱効果の向上、といったところだ。
流石に、地盤に鉄心やコイルを埋め込んでの耐震補強といったことは大掛かり過ぎるため、ソーラーパネルというもともと家に関係ないものを使用する太陽光発電なんかはできないといっていた。
「んー、そうですねぇ、床下に張り巡らせるのは無理でも、魔力を通して温度を下げれば、冷たい床を作ることも……」
「いや、それじゃあ霜に負荷がかかりすぎるんだろう? そんな常時魔力使うようなやりかたは禁止だからな」
理論が必要とはいえ、人外である彼女にとっては、万能効果といえる魔力を使えば大半のことならできるのである。現に、風呂場なんかは完全にその恩恵を受けているわけだし。
「うぅっ、魔力の乏しいこの身が悲しくなります。うちだけでは、こんな化身の姿をとることもできませんし……」
「落ち込むなって、できることやっていけばいいさ。家に導入できなくっても、最新技術って言うのは診ていて面白いしな」
「いつの日にか、主さまに最高の居住空間をご提供させていただきますね!」
両手を握り、闘志を燃やす霜。やる気があるのはいいのだけれども。
「いや、そこまで意気込まなくていいから……」
正直、今の家でも十二分に満足しているのだから、彼女にはそんなに無理をして欲しいとは思わない。ただでさえ、最近は擬人化してもらって家事を引き受けてもらっているのだから。
「あー、そう考えると、労いにきたはずが、またちょっと疲れさせちゃってるのか」
「そっ、そんなことありません! これは、うちにとって本能みたいなものなんです。やっぱり、主さまにはいつも快適にすごしていただきたいですから!」
結局、その後も霜は家の快適計画のために気合を入れて展示を見て周り、俺も彼女と共に導入する際の仕組みや理論を考えたりしていった。
「こんな風に、一緒に家について話せる日なんて、もう今日ぐらいしかないでしょうし!」
なんて言って多少気負いはありそうだったが、霜自身もイキイキと見ていたから、楽しんではもらえたのだろう。
こうして、俺達は夕刻までの間に、その展示場にある全ての住宅を見て回ったのだった。
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