072 『慢心』
「先手必勝、――これで決めるっ!」
試合が始まるや、一瞬で距離を詰め、空亡の首元に手刀を叩き込むみーくん。
が、そんなものがとおるはずも無い。
「ふむ、甘いのぅ」
なんて言いつつ、空亡はみーくんの手を掴んで、否、摘んでいた。
人差し指と親指で、加減されていたとはいえ、相当な速さと威力が乗っていたであろうそれを、二本の指で摘んでいるのだ。
「なっ!?」
流石に、それにはみーくんも驚いたようだ。
そして、その驚愕のままに、彼女は後ろに一気に跳び下がる。特に捕まえる気も無かったのだろう、空亡のほうも、あっさりとみーくんの手を解放したらしい。
「お前、なんなんだ?」
ここにきて、ようやくみーくんのほうも空亡が見た目通りの存在でないと気づいたようだ。先ほどまでの不本意そうな感情は消え、代わりに戸惑いと疑問が口をついたらしい。
「ふむ、そうさな。この通り、見た目は幼女であるが、中身はまた違うということであるよ。故に、躊躇いや遠慮などはいらぬ、お主の全力を持って我を愉しませてくれよのぅ?」
両手を開き無防備に、けれどそんな自らの隙すらも面白そうに空亡は宣言する。
「ははっ、オレの目は飛んだ節穴だったようだな! それでも、何が相手だとしても、彰は絶対に渡さない、望みどおりオレの全てで挑んでやるぞ……!」
空亡の挑発にみーくんは気力充分、侮りは一切無く、寧ろ強者に挑むのが楽しいとでもいうような、嬉々とした調子で空亡へと向かっていく。
そんな二人の熱くなっていく戦いを見て観客である俺達三人思うのは――
「……あいつ、完全に慢心してるな」
「ですねぇ、私達のときにも色々余裕を出しすぎた結果、ああなったわけですし」
「あいつだけが頼りなんだから、絶対勝ってもらわないといけないのに……!」
冷静な依織も、叫ぶレイアも、そして勿論俺自身も、結局は空亡への呆れである。
「敵だったときはありがたかったが、いざ味方になるとあの癖はどうしようもないな」
「緩い性格にもかかわってるとは思うのですが、時と場所ぐらいは考えて欲しいですね」
「まったく、あの変な自信は一体何処からわいてくるっていうのかしら。あんなに余裕をだして、もし負けたらただじゃおかないんだから」
……いや、レイアよ、それはお前自身への盛大なブーメランだからな?
そして、俺達がそうこう話しているうちにも、戦いは更に加熱していく――、
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