070 『最強の理不尽』
「『威勢よく挑んだ割には、清清しいぐらいな負けっぷり』、だったかしら?」
「それは、あなたたちが……!」
「美味かったのだから、仕方ないであろう。それで様々な料理が並ぶのだから、蔵追うのは当然であるぞ」
「えぇそうよ。昼時でお腹すいてるんだから、早く出来た料理を食べるのは当然でしょ」
「それは、そうかもしれませんが……」
レイアの戦いの後とは、間逆の光景。試合後、不戦敗となった依織と、俺達の話し合いの場面である。ただまぁ、今回に関しては、一方的に依織だけが悪いというわけではないのだが……、
「そもそも、相当卑怯なルールで挑んでおいて、負けるなんて」
そう、実は依織はルールと称して、相当自分に有利な条件で勝負を挑んでいたのだ。
具体的には、大きく三つ。
食材は用意したものを使ってもいいが、各自持参品を使用してもよい。
――依織は自分の分だけ、多くの食材を取ってきていた。
対戦相手への妨害は禁止。
――戦闘力的に劣る依織が、妨害をされない為の保険である。
料理時間は制限内なら自由。出来たらすぐに渡していいし、何品作ってもいい。
――作った料理を次々出して、俺達を満腹にさせるつもりだったらしい。
「……なんというか、策士策に溺れる、って言葉がここまでぴったりくるのも珍しいな」
「うぅっ、面目、ありません……」
「あー、いや、すまん、別に責めるつもりで言ったんじゃなかったんだ。ただ、なんとなく、口をついてきただけで」
「うぐっ、そっ、それは、つまり、無意識かで私に落胆を……」
「いや、そういうわけでは……」
なんとはなしに言った言葉で、ここまで依織を落ち込ませることになるとは。
黒くて毒を吐いたりするわりに、言われるのはあまりなれていないのか。単に、言ったのが俺だからというだけな気もするけれど。
「というか、冗談抜きにどうすんのよ? あたしと依織が負けちゃったんだから、もう誰もあいつに反論なんて出来ないわよ。ホントなら、約束なんて無視したいけど、忌々しいことにこの変な場所で誓ったせいで、それもできないし……!」
「何か、手は無いのでしょうか。どうにかして、彼女を納得させてあの契約を無効にする方法が。いっそ、もう、この手で……」
ああでもない、こうでもない、と二人して考え込むレイアと依織。
その鬼気迫る様子に、俺はどうにも声をかけられず、その場でただ二人を眺めていく。
「ねぇ彰、あんたはなんか案はないの? あんた自身のことなんだから、ちょっとは考えなさいよ。もしかして、あいつのところにいきたいと思ってるんじゃないでしょうね!」
「そっ、そうなんですか、彰さん……!? 嘘ですよね、そんなことありませんよね……!」
結局、何も浮かばなかったらしい二人が、冷静な様子でその場に立っていた俺に詰め寄ってくる。俺がみーくんの要求を受け入れ、彼女のところに行くのではないかと。
けれど、その心配は杞憂である。俺が冷静だったのは、単にあることに思い至っていたからなのだから。この場における、最強と言いきれる理不尽きりふだの存在に。
そして、彼女は口を開く。自分の存在と、この場の状況を全て知った上で、慌てふためく二人を眺めていた性格の悪い居候――、
「我が出ればよいだけであろうよ?」
散々状況を堪能したらしい空亡は愉しげに、そう当然の如く言い放ったのだった。
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