020 『白髪頭』
翌日。昼過ぎにやってきた迎えの車に乗せられ俺とレイアがやってきたのは、俺の家よりも更に大きな和風の豪邸。そして、そのまま黒服たちに畳敷きの広い和室へと案内される。
部屋にはレイアの両親、そして容姿の整った白髪の見知らぬ青年と、その父らしく顔立ちの似た同じく白髪の男性がいた。多分白髪の彼らが婚約相手と、その父ということだろう。
「いらっしゃい、二人とも。とりあえず、まずは座りなさい」
部屋に入るなり、そうレイアの母親に促がされ、座布団の上に座らされる。
席としてはレイアの母が最奥の上座、大きな机の右側にレイアの父、青年とその父が並び、その逆の左側には俺とレイアが座るという形だ。
「それでママ、こんなところにあたし達を連れてきて結局何をさせるつもりなのよ?」
「あぁ、まだあなた達には説明していなかったわね。今からそのあなたの恋人さんに、この彼と競い合ってもらうわ」
レイアの質問に答えると、母親は青年を手で示す。それに促がされるように青年は俺達のほうへ視線を向けて口を開く。
「始めまして、レイアミリスさん。白蛇燐ハクダ リンと申します。写真で見るよりもずっとお綺麗で、魅力的な方ですね。こうしてお会いできて、とても光栄です」
そんな歯の浮くような台詞を言って、にこやかに挨拶をする青年、改め白蛇。
中性的に整った顔立ちや笑顔のままつむがれる言葉からは、一見好青年のように見える。けれど、俺のことを完全にいないもののように扱っていることから決して友好的な相手でないことは分かる。寧ろ、その好青年染みた態度からは、作り物のような印象を感じてしまう。
「燐君はこの白蛇家の長男で伝統や格式、更に高い魔力も備えた立派な青年なのだよ。そんな彼が婿としてうちに来てくれるというのだから、とてもいい縁談だとは思わないかい? これを逃したら、もうこんな相手は見つからないと思うぞ」
「パパは黙ってて。それで、どういうことなのママ?」
「正直なところ、私は無理やり結婚をさせるつもりはないし、相手は自由だと思っているわ。ただ、あなたが選んだ彼が相応しい相手かどうか見極めたいだけよ」
「つまり、僕は当て馬ということですか。ははっ、これはなかなか手厳しい」
苦笑する白蛇。確かに元々の見合い相手だった彼からしたら、理不尽な話だろう。しかし、そんなことはレイアの母には関係ないらしく気にした様子もない。
「もともと、私に断りなく進められていた話ですからね。ですが、それではそちらも納得いかないでしょうし、今回の戦いの勝者を許婚として認めることにします」
「なるほど。それでは、なんとしても勝って認めてもらわなくてはいけませんね」
「ちょっと、勝手に話を決めないでよ! あたしはそんなの納得してないわ!」
「大丈夫よ、あなたが選んだ相手ですもの、負けるはずがないでしょう? それとも、もしかして恋人というのは嘘だったりするのかしら? それなら私も考えを改めるけれど」
声を張り上げるレイアに笑みを浮かべてそう答える母親。そうすれば引き下がれないと分かっているのだろう。けれど、その口ぶりから察するに、彼女は俺が本当の恋人ではないと気づいているようにも思える。
「そっ、そんなわけないじゃない! こいつは、嘘なんかじゃなく、正真正銘のあたしの恋人なんだから、そこの白髪頭なんかに負けるはずがないじゃない!」
母親の狙いなどまったく気にせず、予想通り売り言葉に買い言葉で宣言するレイア。これでもう、言質は取られたということだろう。というか、白髪頭って……。
「しっ、白髪、頭……!」
「ぷっ……」
レイアの罵声には耐えれたものの、白髪頭呼ばわりされた白蛇が固まった様子に、つい口から息が漏れる。プライドが高いからか、笑顔のまま顔を固めて青筋を浮かべているのがなんともおかしく見えてしまう。
「ふふっ。さぁそれでは早速ですが、最初の競いの場へと移動しましょうか」
楽しげに宣言するレイアの母に促がされ、俺達は部屋を移動していく。
こうして当事者の一人なのに一言も喋る機会がないという、我ながら空気な顔合わせは締めくくられた。色々不穏で、先行きが不安な限りである。
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