第五話-4

 落雷のような音を立てて、天井を何かが突き破って落ちて来た!!


「ひゃあああ!!」


 思わず悲鳴をあげてしまったが、執事さんは微動だにせず、天井から落ちて来た何かが向かってきたところを見事な動きで振り払った。


「うぎゃふ!」


 振り払われてふかふかの絨毯に叩きつけられた何かが声をあげる。


 が、すぐに体を起こし、再び執事さんに飛びかかる!


 しかし慣れた様子でそれを最小限の動きでかわし、後ろから羽交い締めにして動きを止める。


「うわーくそ!ズルイぞ!正面から戦えー!」


 身動きが取れなくなって騒いでるその声は――――


「ミサキさん?」


 僕の声に反応してくるりと首を回したのは―――


「ん?おう!きゅーせー……なんだっけ?きゅー…きゅー…きゅーさま!」


 間違いなく、ミサキさんでした。


「ミサキ様、それを言うなら救世主様です」


「うん!きゅーさまな!」


 執事さんの指摘を全く意に介さずだ…。


「あの…ミサキさん、そのクイズ番組みたいな呼び方はちょっと……」


「じゃあなんて呼べばいい?」


 ……そう言われると…そうだなぁ、雪猫……はなんか覚えてもらえ無さそうだし……


「じゃあ、ユキヤで良いです」


 ここは本名プレイといこう。


「わかったぞユッキャ!」


 ……まあ良いか、ユッキャでも。


「ところで……なんですかその状況?」


 そんなやり取りの最中も、まだガッツリ羽交い締めされてたミサキさん。


「今日は勝てるかな!と思って!」


 ……頭に大きなハテナマークを浮かべて、僕は執事さんに視線を向ける。


「……自分、ミサキ様の格闘技の師匠でもありまして……あまりやる気の無かったミサキ様にある日、「自分から一本取れたら、ご褒美に高級肉を差し上げましょう」と言ってから日時を問わずに襲ってくるようになりまして……」


「それは…大変ですね」


「いえいえ、ミサキ様程度の実力ならば、あしらうのは簡単な事です。なにより、やる気を出してくれましたからな、このくらい安いものです」


「ぐぬぬー!!まだ一回も勝てないんだよー、くやしいよー!ぐぎぎぎー!」


 なんかこの二人だけ格闘技漫画みたいな世界を生きているな……まあでも、楽しそうだし良いか。


 ……と、そこで僕は気付く。


「あれ?そう言えばレナンさんは?二人ともここに住んでるって聞いて来たんですけど…」


「レナン?レナンならそこに居るぞ」


 ようやく解放されて自由の身になったミサキさんが、ソファーの裏へと歩いていき、そこにあった何かを掴んで持ち上げると…


「……あ」


 それは、小さくまるまって隠れていたレナンさんでした。


 白いワンピースの腰に巻かれた赤いベルトを掴まれ持ち上げられている様子は、首を掴まれた猫のようですらある。


「んー!んー!」


 イヤイヤをするように首を振って暴れるレナンさん抱っこして、そのままソファーに座るミサキさん。


 そのまま抱き合うようにしながら、ミサキさんの膝の上に座って、ちらちらとこちらを向くレナンさん。


 そんなレナンさんを、「よーしよーし」と撫でてなだめるミサキさん。


 ……なんだかペットと飼い主みたいな感じですね…?


 けど……けど……この感じ、ちょっと萌える…!


 美少女同士のイチャイチャとも取れるこの感じ……そんなん好きに決まってる!


 またお互いに心を許してる雰囲気がたまらないな!!


 しかも、普段はあんなにデタラメなミサキさんが、ちょっとお姉さん感を出してるギャップ!!


 しゃ、写真!!写真撮りたい!!


 動画だったら絶対スクショしてる!!


「雪猫様……どうかなさいましたか?」


「変態だ、変態の顔だぞユッキャ」


 はっ、いけない、我を忘れるところだった


 あああ、レナンさん、そんな軽蔑の目で僕を見ないで!でもそれはそれで良い!!


 違う違う、落ち着け僕。


 目的を思い出せ。


「えーと……まあその、物凄く端的に言うと、二人と話をしたいな―…と思って来ました」


「おう、何でも聞け、何の話だ?」


 真っ直ぐこっちを見るミサキさんと、基本顔を伏せながらちらちらこちらを見るレナンさん。本当に真逆の二人だなぁ。


「ではまず……お二人は、どうしてアイドルをやろうと思ったんですか?」


 動機は、それほど大事と言う訳じゃないけれど、やはり聴いておきたい話のひとつだ。


「んー、そーだなー……やりたいな!って思ったから!」


 ……なんてシンプルなお答え。


「レナンさんはどうですか?」


 答えが返ってくることはあまり期待せず、一応訪ねてみると……


「私も……同じ…」


 と小声で答えが返ってきた。


 考えてみたら、最初に出会った時も全く喋らなかったという訳ではない、臆病で泣き虫なだけで無口キャラではないのだ。

 いやまあ、もっとちゃんと話したいという欲求はこっちには確実にあるけども。


「じゃあその、どうしてやりたいと思ったんですか?」


 もうちょっと深く掘ってみる。


「どうしてって?やりたいなーって思ったからやりたいんだよ」


「…以下同文」


 会話が成立してるのかしてないのかギリギリのところだなこれ…?


「じゃあその……アイドルをやってく上で、こう……どういう気持ちでやってます?」


 モチベーションを聞こうと思ったけど、はたしてモチベーションがちゃんと魔法で翻訳されるのかよく解らないな…?と思ってなんかちょっと曖昧な質問になってしまったが、まあ意味は通じるだろう。


「んー…………楽しかったり、めんどくさかったり、でも楽しかったり」


「……8割ツライ……でも、一緒だから」


 レナンさんはそう言って、ミサキさんの顔をじっと見る。それに気づいたミサキさんは、嬉しそうに笑って、レナンさんを撫でながらギューッと抱きしめた。


 ど、動画!誰か動画撮ってませんでしたか!!可愛い!!可愛いよこの二人!!


 いや撮ってる訳ないけど!この部屋私たちしか居ないから撮ってるわけ無いけど!


「気持ちは解ります!あとで映像を送ります!」


 声に振りかえると、執事さんがたぶんカメラと思われる道具でなんか撮影してました。


 凄い嬉しそうだ!!そして楽しそうだ!


 なによりグッジョブ!!


 っていうか、僕そんなに解りやすいリアクションしてた!?恥ずかしいなそれはそれで!

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