deimos02-05


「お前にできることは雷撃だけではない! 手に入れた力が他にもあるだろう。テューポーンとアレス、そしてネサレテ達に勇気を与えろ!」


 はぁ?

 アテナは何を言ってる。

 俺にそんな力は……あ、言霊の力か?

 だが、どうやって使えば良い?


「どうすれば……」

「雷撃を放つのと一緒だ。言葉にイメージを乗せろ!」


 そう言われても、勇気を与える言葉ってどういうものだ?


「馬鹿者! 格好の良いことを言おうとするな。素直な気持ちを伝えれば良いのだ」


 くっそ、わかんねぇよ。

 もう破れかぶれだ。


「ネサレテ! ベアトリーチェ! 俺はこれからもずっと二人と生きていきたい。だからこの戦いに勝とう! デイモスを倒そう! 頼む、力を貸してくれ」

「はい!」

「当然です」


 デイモスへ矢を撃つネサレテと、ネサレテを守る盾を広げるベアトリーチェ、そんな姿を思い浮かべながら俺は叫んだ。

 二人からの返事が聞こえたあと、テューポーンにも叫んだ。


「テューポーン、負けるな。お前はゼウスにさえ一度は勝ったほどじゃないか。そんな獣など蹴散らしてしまえ!」

「主よ、任せたまえ!」


 獣たちを尾でなぎ払い、炎で焼き尽くすテューポーンの姿を思い浮かべて叫ぶ。

 返事をするテューポーンの身体が赤く光る。


 俺の言霊の力が届いたのか?

 届くと身体が光るのか?

 背後のネサレテ達も同じ様子なんだろうか。


 おびただしい数の獣が、一体また一体とテューポーンの炎に焼かれ消えていく。

 一応は神の力も持つテューポーン。

 だけど半分は怪物で、半神と同じように神力を表に漏れさせずに戦えるはず。


 獣たちを駆逐している様子から、攻撃力は増しているように見える。

 どうやら言霊の効果はあったようだ。


「ふざけるなよ……玖珂駿介。


 いいか?

 四凶でさえ神という地位が与えられる。


 だがデイモスの立場は何だ?

 四凶と同じく、この世界の生き物が生み出した存在なのに、誰も認めん。

 

 そうだ。

 四凶に触れて判ったのだ。


 生き物は、特に人間は身勝手だ。

 認めないくせに我らを生み出した人間など、我の怒りによって苦しみ滅んで当然だ。


 悲劇的な目に遭った人間を救う?

 そのために我を滅ぼす?

 

 ふざけるな。


 我が滅することで、人が救われるだと?

 生まれた負の感情が救われることなどありえん。

 

 お前も偽善と詭弁にまみれて、虐げられた者達の思いを踏みにじるだけの存在だ」


 デイモスの主張にも一理あるように聞こえる。

 理屈など、見方や立場が異なればいくらでも正しそうなモノを持ってこれるしな。


 馬鹿な俺には実際の所判らないが、正しい側面はあるのかもしれない。


 だが、俺は否定する。

 少なくとも、新たな悲劇を生み出そうとしているのだ。

 デイモスの主張に正しい側面があろうと絶対に認めない。

 

「知らん。

 お前は生まれてくるはずだった俺の子を殺した。

 別れた妻を利用しようとした。

 テロリスト達から人間の尊厳を奪った。

 他にも理由はあるが、お前の苦しみや悲しみを癒やすために、他の者の苦しみや悲しみを必要とする主張など認めるわけにはいかない。

 同情するつもりもない。

 そもそも聞く耳など持ち合わせていないからな。

 お前はここで滅びろ」


 ネサレテの矢が当たるようになるまで、俺は雷撃で攻撃するだけだ。

 降り注ぐ雷撃を堪え、ダメージを負いながら近づいてくる。

 だが、漏れ出す霧が減っているのも判る。


 テューポーンが獣を一掃するまでは距離を保って攻撃していればいいはず。

 テューポーンが来るまでにネサレテが攻撃できるようであれば、更に良い。


「クロノス。敵との距離を保てるよう頼む」


 俺は攻撃に忙しい。

 ヘラクレスのおかげで神力がブーストされているけれど、その分、精神の疲労も大きい。雷撃をアレにたたき込むことに集中しているんだ。


 味方の、敵との距離を考慮しながら戦えるほどの余裕はない。

 俺自身のことだけで精一杯だ。


「任せろ。ネサレテ達が攻撃されるようなことはないよう気をつけていよう。まあ、ベアトリーチェの盾があるから、万が一攻撃されても大丈夫だろうがな」

「判っているけど心配なんだ。ベアトリーチェの力を使わずに済むようにしてくれ」

「お前の気持ちも判っている。大丈夫だ」


 クロノスを信じる。

 俺の相棒だからな。


 ……距離を取りながら、俺はデイモスへの攻撃を続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る