contact01-03
「奴らにどう答えるつもりだ」
「それを悩んでるんだよ」
武田達が帰った後、うちの
クロノスの力で幻影を見せるにしても、見せる内容をしっかりと決めておかなければならない。
問題は、T国に居た映像や画像の存在なんだが、クロノスに頼めば消すことは可能だろう。
だが、消去する際に何らかのリスクはないのか判らないのが困る。
消去履歴は残ったりしないのだろうかとか、システムに詳しくない俺にはまったく判断できない。
その手段を明かせないだけで、移動した事実はあるんだ。
「ああもう……正直にさ? 神様に連れていかれたって言っちゃおうかな」
「それもいいだろう。本当のことだからな。だが、頭がおかしいと思われるか、嘘をついているとしか思われないだろう」
チクショウ、ああ、その通りだ。
んなことは判ってんだよ。
こんな時に当たり前のことを当たり前に言うのは止めて欲しいものだ。
どうしたらいいのかなぁ。
良い案がまったく浮かばない。
俺は落ち着かず、居間をただうろついているだけだった。
「邪魔するぞ」
玄関からヒュッポリテの声がした。
居間に入ってきて、ドカッとクロノスの前の椅子に腰を下ろす。
俺とクロノスに少しだけ目を向けたあと、タイトなスカートから伸びるスラッとした足を組んで話し始めた。
「侵入者が居たので、排除しておいたぞ」
「侵入者?」
切れ長の灰色の目に剣呑さを漂わせている。
いつもはヘラと一緒に居るから目立たないが、ヒュッポリテもなかなかの美人。
元アマゾネスだったからなのか、しなやかな動きに肉食動物の雰囲気を感じさせる。
従者としての仕事をしている時は大人しさばかり感じるのだが、本性を出すと喰われそうな怖さがあった。
「ああ、へラ様が可愛がっているジョゼフとシャルルを誘拐しようとしていた」
「そいつらは?」
「排除したと言っただろう? 今頃はハーデス様のところだ」
「殺したのか?」
「結果的にはそうなるだろうな。私は気絶させ、へラ様にお伝えしただけだがな」
うわぁ、へラがハーデスのところにその侵入者を送ったのか。
それじゃ人間には何が起きたのか判らないだろう。
この世界では行方不明者扱いになるだろうな。
あのへラが俺に頼んでまで連れてこさせ、まるで実子のように可愛がっているジョゼフ達に手を出そうとしたのなら、どうなるかは火を見るより明らかだ。
虫けらを処理するように、何の温情も見せずに冥府へ送ったのだろう。
その様子が目に浮かぶ。
「その報告に来たのかい?」
「ああ、いずれその者等の情報がハーデス様からへラ様のところへ届くだろう。玖珂駿介、おまえにもな」
「そうか、判ったよ。ありがとう」
礼を伝えると、じっと俺の目を探るように見た後立ち上がった。
「この牧場の関係者は、へラ様と私が守る。エリュニスも居るから心配するなよ」
「ああ、感謝する」
用が済んだ俺に背を向け、ヒュッポリテは豊かな黒髪をなびかせて、玄関へスタスタと歩き去って行った。
冥府へ送られた奴の情報が判らないから、この国の人間かそれともA国や他の国の人間かは判らない。
だが、ここに送り込んだ人間が消息を絶ったのだから、俺が疑われるのは確実だ。
先ほどヒュッポリテが座っていた椅子に腰を下ろす。
目の前のクロノスが俺の様子を静かに観察していた。
「どうやら時間をかけて考えている状況ではないようだ。どうしたらいい? クロノス」
「おまえに手を出すと痛い目を見ると判らせるしかないだろうな」
俺を放っておいたほうが良いと思わせるには、相手に損害出るポイントを知らねばならない。
だが、そんなもの知らない。
「どうやって?」
「何を悩むことがある? 駿介、おまえには神々が手を貸しているのだ。神々との約束を守る限りそれは続く。つまり人間が何をしてこようと、どうとでもできる力があるのだ。自分と仲間を守るために動き、それが世界の
そうなのかもしれないが、もともと人間だったからか、人間社会の理屈や常識から離れられない。
小市民でしかなかった俺の常識から離れられないで居る。
「潰しましょうか」
俺とクロノスの話を聞いていたネサレテが物騒なことを言い出す。
「潰すって……何を?」
「うちにちょっかい出してくる組織をです」
うーん、ベアトリーチェより温和なネサレテが過激なことを言うとはちょっと驚いた。
目が笑っていない……これはマジだ。
もしやこれもへラの影響じゃないだろうな。
敵に損害を出す……か……。
下手すると国を敵に回す手段だ……それも複数の国家を。
それはできるだけ避けたいんだが……。
しかし、他に良い手が浮かばない。
相手の弱みを知らないのだから、浮かぶはずはないんだ。
「私もネサレテに賛成よ。権力者って自身の都合しか考えないわ。個人でも組織でも」
ローマ教皇に酷い目に遭わされたせいで、ベアトリーチェは権力組織を嫌う。
その心情はよく理解しているし、言っていることもその通りだと思う。
だけどだ、この先ずっと睨まれたままで過ごすのは気持ちの良いものではない。
真剣に俺を見つめている愛しく大事な二人の顔を見ながら、できるだけ穏便に守る手段は無いか考える。
「力があるからと身勝手に生きて良いとは思わん……今はな。だがな? 誰にも迷惑かけずに自由に生きる権利を侵害されて黙っていることはないと我は思うぞ」
確かにそうだ。
ああ、自分の優柔不断な性格が嫌いだ。
こうして悩んでいた深夜、再び来客があった。
……そしてその客は、俺に決断を促す機会を作ったんだ。
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