第35話 旅路の始まり
多くのドラゴンが飛んでゆく。東の空に。俺はラディウスの家から眺めていた。その先に何があるのか知る由も無いが、手掛かりは手繰り寄せなくては始まらない。そして、忍耐強く一つ一つの情報の断片を集め、一つのものにしていくんだ。クルドには事実の断片を見つけに行こうと言った。お互いわからない事だらけだった。
「じゃあ。行こうか」
「アキオ。掴むぞ」
「ダメだよ。君の角に捕まらせてくれ」
「何だって。人間を俺様の角に。ダメだ。そんな事、許さない」
「そうかい。でも、あそこに降りてとか。あの山に行こうとか。手の中で君に聞こえるんだろうか。ことは一瞬で終わる事もある。遅れを取れば何もかも失う事もある。それでも良いのか」
「何のこと?」
「例えば、聖なる木の実だ。沢山あれば良いのだが。俺たちは場所を知らないんだ。一個だけだったとして、君以外が食ってしまったらどうなる。ダメだろう。遅れたら全てを失う。だから君は第一番に聖なる木の実を食いに行くのが妥当な作戦だ。早く着いて、お腹に入れる。そうすれば後は俺の目的を果たし、聖なるドラゴンに会うんだ。そうすれば課題が全て達成される」
「そんな事もあり得るのか。沢山あると考えていたが、そんな事もあるんだ」
「違う、違う。最悪の事を想定するんだ。もしそうなら大変だって事を。わかるだろう。君以外にもこの課題を与えられているドラゴンがいるかも知れない。そのドラゴンよりも早くつかないといけないんだよ」
「分かった。アキオ。角に掴まってくれ。落ちないでくれよ」
「ゆっくり飛んでくれ。下にある物を見ながら行こう」
「分かった。ゆっくり飛ぶよ」
黒いドラゴンのグエルの手に掴まれて空を飛んだ実感では軽い軽いと考えていた。それにクルドはグエルと比べて小さかった。だものきっと遅いと考えていた。俺の予想は完全に外れた。クルドは俺の予想の斜め上を行く奴だった。あっと言う間にドラゴンの村を飛び越え、山を三つスッと越えてしまい俺を慌てさせた。
「おい、クルド。早すぎる。もっと速度を落とせ。何も分からない」
「えっ〜!これ以上ゆっくり飛ぶのかい。チンタラ飛ぶのは気が進まないなぁ」
「でも、君は何処に降りるのかわかっているのかい。情報の断片を集めることが大切なんだよ」
「わかった。これくらいかい」
「もう少し遅く」
「ふ〜ん。えらくゆっくりなんだね」
「そうしないと下が見えないんだよ」
「アッ。あれは何だ」
「どれだい」
「あの山の斜面の木が折れている所さ。ほら何かあるだろう」
「ああ、アレか」
「あそこに降りよう」
そこは村だった。そう思いたいのだが、瓦礫が散乱する余りにも無残な場所だった。火がついて焼けたような跡ではなく、溶けたように金属や煉瓦がなっており、何がそうさせたのか考えさせられた。
「これはドラゴンの仕業だと思う。それも相当な上位者が火を吐いたんだろうなぁ。ここを見てよ。こんな事が出来るのはお父さんぐらいだね」
クルドに言われて岩を見たらガラスのように溶け出していた。恐ろしいくらいに高温の炎がそこに吹き付けられた事実を見せつけられた。
「お父さんは決してこんな所で火は吐かないさ」
そうだろう。あの思慮深いラディウスがこんな事はしまい、だが、誰が、と思い辺りを見渡していた。すると向こうの岩陰に何か光るものがある。慌てて近寄り光る物を手に取ってみるとそれは赤く輝く鱗のようなものだった。俺は即座に思った。この鱗はディオスの物ではないかと。それでクルドに見せて意見を聞いて
みた。
「そうだね。あの人の物だろうね。こんな事ができ、かつ赤い色の鱗」
やはりそうかと俺は納得するしかなかった。だがこんな事を何故するのかが理解できなかった。しかし、クルドと二人してこの怒りに狂った赤いドラゴンを倒すべく戦う事になろうとは、この時には考えもしなかった。ただ、聖なる実を探す手がかりを求めて降り立っただけなのだ。
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