第13話 異変

「ここはどこ。俺は誰」

誰でもどこか知らない場所に放り出され、強い衝撃を受けてごらん、多分自分が分からなくなるのだろう。トマスは坊ちゃんで生きて来た男だ。誰とも上手くやり、いじめられる事もなく、成績もきっと良かったんだろう。精神的衝撃に脆かったんだと俺は感じた。

 だが俺もハッキリ言って動揺していた。現代のニューヨークから原始時代にタイムスリップした様なこの違和感に不安が襲わないほうがおかしいが、俺はいつも精神的に圧迫されていたので何とか切り抜けることが出来たんだと感じていた。


「さてどうしたものか。死にかけのこのおっさんをどうしようか」

考えて見たが殺しても自分の得にはならないし、一人よりも二人の方が生きて行き易いと考えた。それで助ける事にした。


「おいっ。生きてるか」

声をかけて見ると意外と元気そうだった。

「お前英語を喋れるのか」

「ああ。少しならね。小学校までの英語は喋れるが、スラングは喋れないよ」

「分かった。俺に何の用だ」

「このままじゃ、あんた死んじゃうと思うけど」

「うるさい。ほっといてくれ」

「まあ良い。このまま置いておこうか」

「まあ待て。助けてくれると言うのか」

「そうだ。こんな所だ。一人よりも二人で過ごした方が生き残る確率が高くなるとは思わないか」

「お前を殺そうとしたんだぞ。それでも助けてくれるのか」

「ここがどこか知ってるのかい」

「なにを言う。お前の方が知ってるんだろう。教えろ。どこなんだ。あの研究所からどの様にしてここに来たんだ」

「悪い。俺も何が何だか分からないんだ。手近な穴に飛び込んだだけなんだから分からないよ。おいおい調べないと分からないと思うよ」

「嘘じゃないだろうな」

「こんな時ジョークや嘘を言う奴を見た事ないよ。あの恐竜を見て何も感じないのかい。考え違いでなかったらここは異世界さ。あそこに見える仲良く並んだ太陽がその証拠だ」

「そんなことがあるのか。・・・・・。確かに太陽が二つ見える。じゃあここは地球とは違うのか。どうしてこんなところに」

「さあな。そこの男にでも聞いて見ると良い。答えはほぼ同じと思うけど」


 男はトマスに声をかけた。


 トマスは男が何を問い掛けようがあらぬ方向を見、何か分からぬ言葉を話すだけで膝を抱えて震えていた。

俺はこの世界が親父たちが行方知れずになった事と関係があるのではないのかと考え始めていた。もし、親父たちがこの世界に飲み込まれたのなら俺は会いたいと思った。可能性はゼロに近いかも知れない。けれど行くしかない。戻ろうにも手段が無いのだから。

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