災難は白い猫の姿をして 2
コンフェッティは、アンジェリーナを5区にある彼女のアパルトマンまで送り届けさせられた。マダムの命令によるものだった。
いわく、か弱い乙女を夜に一人出歩かせるなという趣旨らしいが、彼女に関しては全く不要な心配に思えた。まともな神経の持ち主であれば闇夜に出会ったら我先にと身を隠すはずだとコンフェッティは確信する。
道の途中には、ノートルダム大聖堂が威風堂々とそびえている。ライトアップされたノートルダムを見上げながら、薄荷煙草に火をつけた。
「薄荷煙草ですかい?」
頭の上から突然降ってきたガラガラ声に、コンフェッティはたじろいだ。
見る間に、目の前にばさりと大きな翼を持つ生き物が舞い降りる。ガーゴイルだ。
人なつこい笑顔で鼻腔をまんまんとひろげ、たなびく薄荷煙草の煙を吸い込んでいる。
「実にいい香りですねえ、こりゃ上等な薄荷煙草だ」
コンフェッティは気を良くして、シガレットケースを突き出す。
「一本、どうだ?」
「おや、いいんですかい? こいつぁありがたい」
ガーゴイルは、鋭い爪のついた手でうまそうに薄荷煙草をくゆらすと、ゆっくりと煙を吐く。
「こりゃたまりませんなあ、あっしら魔族にとっちゃ、魔力がみなぎってくるようですわ。あっし、これから急ぎの仕事なもんで、いや、ありがたい」
「人間界で? ガーゴイルが仕事?」
「おや旦那、ご存じありませんか? ♪人間界でも~ひとっと~び~、お手紙、お荷物、飛~脚ぅ~ガーゴイル便♪って」
おそろしく音痴だったが、確かにそんな歌は耳にしたことがあった。
ガーゴイルはあっという間に一本を吸い終えると、上目遣いにコンフェッティを見て、薄荷くさい息を吹きかけた。
「あのう、もう一本いいですかね?」
よほど薄荷煙草に目がないと見える。
「こちらに来るときに、それなりにたくさん持ってくるんですが、すぐになくなっちまいましてね。単身赴任ちゅうのも、なかなか骨ですわ」
蒸気機関車のごとくガーゴイルが煙草をふかしまくるものだから、煙草は見る間に燃えさしになっていく。
「旦那は、ご観光か何かで?」
「俺も仕事で出張中さ」
「どうりで暗いお顔色で」ガーゴイルは割れ鐘のような笑い声をあげた。
「そうだ、お仕事の旦那、パンテオンに行ってらっしゃいまし。ぱあっと騒いでくると、気分も晴れるってもんですよ。会員制ですがね、あっしの名前を出せば問題ねぇですよ。なぁに、薄荷煙草のお礼ですわ」
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