にわか野球フリークの俺が、ある日突然領土をめぐって紛争直前の異世界に飛ばされるも、そこで出会った少女騎士団に剣の代わりにバットを与えてラブアンドピースを図る名采配。

HAL

プロローグ「夏の終わり」

 ひいきプロ野球チーム『プラチナバスターズ』の自力優勝消滅と共に、俺の夏は終わった。


 縦浜スタジアムからの終電。

 乗客もまばらな座席に腰を下ろし揺られながら、残り少ないシーズンをどうやって過ごすか……そんなことをぼんやりと考えていた。


 明日の新聞はこの話題で持ちきりだろう。

 スポーツの世界にタラレバはご法度ではあるが、悔やむに悔やみきれない。

 使い古しの油くさいグローブがはめられた左手にグッと力を込める。

 その中には、バットの跡がくっきりと残ったホームランボール――。

 本来ならばこの白球の重みがこんなに嬉しいことはない。

 しかし、今はただ悔しさと苛立ちが先行していた。


 トドロキ監督の采配は間違っていたのではないか?

 もし俺が監督であったならば、5回表に巡ってきた逆転のチャンスで不調のカワサキに問答無用で代打を送っていたはずだ。

 ヒットで同点。代走に足の速いオオヌキを送り、足を使った戦略で逆転――。


 7回裏のピッチャー交代のタイミングも遅かった。

 連続フォアボールで疲労が目に見えていたベンジャミンを何故そのまま使い続けたのか?

 前の回で持ち前のストレートが若干浮いていると言う異変に気付かなかったのか?


 ため息と同時に、視線を落とす。

 右手には、半年前のキャンプ先で偶然出くわした憧れの安打製造機、イシグロ選手から頂いた木製バットが握られている。

 今日の彼も、4打数3安打の猛打賞で大活躍だった。

 だが後続が上手くかみ合わず、惜しいところで残塁。

 特に3回表のノーアウト1、2塁。あの場面はいくら4番のパワーバッターヒイラギであってもバントを駆使し、貪欲に1点をもぎ取る姿勢を見せるべきだった。

 などと考えをめぐらせても、所詮は机上の空論。後の祭り。

 大声を出したり、嘆声を漏らしたり、派手なパフォーマンスをしたせいか俺は、いつの間にかウトウトとしてしまった。


 現実は辛くて厳しい。


 だからこそスタジアムにいる間は、自分が学生であることを忘れさせてくれる。

 言わば『プラチナバスターズ』の一員として共に戦う勇ましい騎士のような――。


 その一方、スタジアムから出れば、自分が何のとりえもないただの学生であることを思い知らされる。


(明日は数学の小テストがあったっけ。クソッ、担任のマツムラめ……俺が『プラバス』びいきだからって目の敵にしてるんだよな)


 マツムラは、金でスター選手を集めた『ゴールデンファイターズ』びいきなのだ。

 どいつもこいつも年棒一億越え……。

 野球で本当に大事なのは金ではない。野球を愛すると言う気持ちではないのか?

 しかし、理想ではメシは食えない。

 それも分かっている。分かっているからこそ余計に辛かった。


「次の停車駅は……。降車の際は……にご注意ください」


(まずい。早く降りなきゃ……)


 気持ちが沈み、文字通りの重い足取りだったのだろう。

 電車とホームの間が離れている場所がございます。降車の際は、足元に注意してください――と言ういい加減聴き慣れたアナウンスも、今の俺にはまったく届いていなかった。


(えっ? あっ……!)


 夢と現実の狭間。自宅の最寄駅に到着し慌てて駆けだした足は非情にも、数10センチ空いた奈落の闇へと飲まれてしまう。

 グローブと白球とバット。そして悔恨と焦燥の念を抱きながら、俺の意識は一旦そこで途切れることになる――。

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