第六章 目覚めない少女

第六章 <Ⅰ>

りんは?」


 権平ごんだいら先生と青深はるみが、救急病院に駆けつけたのは、日暮れ間近だった。


「いま検査中。まだ目を覚まさないの」


 陽蕗子ひろこが答えた。


「脈拍も心電図も問題無いって」


 陽蕗子とあたしは、林のお母さんを両側から支えるようにして坐っていた。

 ここは緊急外来専用の待合室だ。


「薬物とかじゃないんだって。あと脳梗塞のうこうそくとか心臓の発作でもないんだって」


 あたしがお医者さんから聞いたメモを読む。


「まだ原因は分からないけど、とりあえず危険な状態とかではないから、安心してって」


「――そうか。良かった」


 権平先生が安堵あんどの色を浮かべた。

 やつれた顔を上げたお母さんが、拝むように頭を下げた。


「権平先生。申しわけありませんでした」


「いや。御心配でしょう。どうぞお気遣いなく」


桐原きりはらさんと靱負ゆきえさんには、救急車まで付き添わせてしまって。御迷惑をお掛けしました」


 お母さんがあたしたちにまで頭を下げる。

 眼差しが落ちついている。さっきは、余程パニックに陥ってたんだな。

 うちの親も、突然あたしが倒れたら、どうかなっちゃうのだろうか。


「大丈夫ですよお。さっき親に電話したら、頑張ってね、って言われましたし」


 陽蕗子が明るく頬笑む。


「うちの親も、なんなら応援に来るそうです」


 あたしも言い添えると、お母さんはもっとすまなそうに頭をさげた。


時雨しぐれ。そのカバンは?」


 青深が、あたしの隣のボストンバッグを指差した。


「リンリンの入院セットだよ」


 救急車を待つ間に、お母さんが着替えなどを闇雲やみくもに詰め込んだので、限界までぱんぱんに膨らんでいる。あたしが荷物係を引き受けてかついできたんだ。


「こっちに、どけるね」


 先生と青深の坐るスペースを開けようと、バッグを空いてる場所に移した拍子に、ファスナーが開いて、コロコロンと茶色い丸いものが転げでた。

 

 するとお母さんが、びっくりするような悲鳴をあげた。


「どうして? 誰が、こんなものをここに入れたの?」


 お母さんが、また顔を引きつらせてパニックになりかけている。


「あたしじゃ、ありません」


「うちも知らないです」


 ぬいぐるみの頭なんか、誰も入れてない。


「これって、たしかさっき、林さんのベッドにありましたよね……」


 陽蕗子の声がふるえている。

 

 自分でついてきたみたい。――まさか。


 背筋が冷たくなった。

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