第78話 槍の行方
松下先輩の叫ぶ声が聞こえ、卓の左右からその先輩と真帆さんが飛び出てくる。そして俺たちも、煙の出ているこたつから慌てて離れると四方八方で立ち尽くしていた。
「舞、大丈夫?!」
「鮫吉、水、水」
心配する堀田先輩に、さすがの松下先輩も焦っているようだ。
騒ぎを聞いた店の人たちが駆けつけ、すぐに桶で水をかけると火は消えたが布団はぐちょぐちょになり卓は黒こげである。
…………。
「みなさんお怪我はありませんか?」
「ぁぁ」「ぅん」
怪我も火傷も誰もしなかったが気まずく、石津屋さんに何となくの返事になってしまう。
「すいません。まほがにーの机焼いてしまって」
堀田先輩が謝っているのだが、弁償したらいくらになるのだろうか?
「イカサマですか……。何となく、サイコロがこう、ビュン! っと止まってるのでおかしいとは思っていたのですが」
ああ、石津屋さん。まほがにーのことだけじゃなく、イカサマのことでも怒っているようだ。
「ごめんなさい。どうしても槍が欲しいということだったので……」
この状況で自分から正直に謝るなんて。真帆さんもなかなか度胸あるよな。
「銅線が電圧に負けてしまって……」
「あなたが考えたのですか?」
続けた真帆さんに、石津屋さんが質問した。
「いや、あの、知らないで電圧を上げてしまったのは私なんです。すいません」
は! 松下先輩が謝るの初めて見たかも。
「ハッハッハ、違いますよ」
「「?」」
石津屋さんの言葉に、松下先輩と真帆さんは首を捻る。
「すばらしい! まだお若いのに」
へぇ?
このあと、これまでの経緯と真帆さんが学校の見学に来ていると知った石津屋さんは、さらに絶賛する。まったく、金持ちの考えることも電磁石のことも俺には分からない。
双六の勝敗は決しなかったが、面白かったと槍は売ってもらえることになった。
店の人たちが横でこたつがあった部屋の掃除をするなか、長三郎が槍を受け取る。
「さすが南蛮渡来の槍だ!」
近くで見ると柄は木製だが、刀などで叩き折られないように金属で補強されている。重さを考えるとぎりぎりってところまで強化がされているようだ。
手に持った槍をいろんな角度から見、褒めちぎりはしゃぐ長三郎に石津屋さんはつぶやいた。
「それ、薩摩産なんですよね……」
安来と違い反射炉というものがあるらしく作れるらしいのだが、それでもこれほどの一品はそうそうないことは間違いない。
「それで金のことなのだが」
山中教官が、高すぎて本部での手続きが終わらないと現金が用意できなと話すのだ。
「それはわかりますが、それなら担保が欲しいですね」
「担保とな」
「その蓄電池。車のでしょ?」
と石津屋さんは、こげた蓄電池を指差す。
「ああ、そうだったな……いや、ちょっと待て。お前ら人員輸送車の蓄電池外したら車動かないじゃないか」
イカサマに付き合ってなかったとはいえ、ネタバラシのときではなく今になって山中教官は気づく。
「ではその人員輸送車を担保としてお預かりするということでどうでしょうか? 本部の方がお金を持って来られたとき、車を持って帰られればよろしいかと」
「うーん、そうだな。そうしよう。本部にその旨も報告して、すぐに用意させよう。石が付いていなかったとはいえ、石がらみの案件なら文句も言われまい。それに……」
「それに?」
「いや、なんでもない。まあ、間違いなく金は来るということだ」
話は決まり、俺たちは旅籠に戻ることにした。
槍も売ってもらえ、こたつの弁償もしなくていいとなり、それどころか「また遊びに来て欲しい」とまで言われ、真帆さんは相当気に入られたようである。
昼ごはんが終わったあと、今後について旅籠で話し合っていた。
「車がないとはいえ、いつまでも大坂にいるわけにもいくまい。そこでだ、お前たちは大和まで鉄道で行ってくれ。槍の話を書く報告書で、別の人員輸送車を向こうの駅に用意しておくようにと伝えておく」
山中教官がそう説明すると、松下先輩が真帆さんに尋ねている。
「あなた馬車できたんでしょ? 帰りもそうなの?」
「ううん、決めてないよ。鉄道に乗ったことないから私も乗ってみたいな」
「そっか、別に構いませんよね?」
松下先輩が確認しようとすると、それよりもと長三郎が聞く。
「ところで手に入れた槍もですけど、武器や防具の荷物はどうすんですか?」
そういや車に積みっぱなしだ。
「
どうせ着るからと車には今まで雑に積んでいたけど、鉄道に乗るなら堀田先輩が言うように入れ物が必要だ。
「そうね。使わない前の槍は置いていくとしても、新しい槍用の鞘も必要ね」
松下先輩の話に長三郎が心配する。
「武器置いていって、紛失だなんて後で言われませんかね?」
「車に載せておけばなくならないでしょ。むしろ一緒に回収してくれるわよ。鮫吉も前の刀、じゃまだから置いていきなさいよ」
「う、うん」
そしていくらも経たないうちに石津屋に戻ることになる。
「分かりました。鎧櫃を六個と鞘ですね」
こうしてこれもツケ払いで購入すると、出発に向けて準備をするのであった。
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