第66話 嫁に来ないか?
出雲国に入り、もう少し行けば出雲郷宿だというのに小雨が振り出した。
うん?
顔に当たる雨が気になり発見が遅れたが、被った
ただ、一人でかと聞かれると、二人とは言えないと状況だと思う。何故なら、もう一人は顔まで区別なくぐしゃぐしゃの髪がかかり、隙間から見える顔は黒く煤けているからだ。
お婆さんでは、ないよな。
ここは街道でもあるし出雲だ。遺跡が近くにあるとは思えないけど経験上、人じゃない。
女性はこちらに気がつくと、菅笠を持った手をそのままに小走りで近づいてくる。恐怖心のせいか、心もとない足取りだ。
「お武家様、お武家様。助けてくださいませ」
「うむ」
山中教官は側車から刀を取り出すと、飛び掛ってくる化物を一太刀で消し去る。
「ありがとうございます……」
彼女は落ち着きを取り戻したようで、深くお辞儀をすると頭を上げる。
「……わたくしが美人なばっかりに」
ずっと笠を押さえていたので顔が見えなかったけど、確かに美人だ。黒くて艶のある髪を伸ばしていて、ちょっと穂見月っぽいかも。
「結婚してください!!」
山中教官いきなり何を……それにそもそも奥手なんじゃなかったの?
右手を差し出し、女性を見つめている。
怖いよ。先に名前聞こうよ。
「あの、わたくし、
見れば分かると思うけどな。何にしても嫁ができない理由は、そこが問題ではなかろうか。
それで話を聞くと、あれは縁結びに失敗した女が妖怪になったもので、宿泊施設に戻るところをたまたま襲われたということだ。
まあ、巫女さんが言うのだからそうなのかな?
正体が何かはともかく、また襲われてはいけないからと山中教官の側車で送ることになる。
どうせ大社に向うのだからそれはいいけど、乗せていた装備を着て運転するなんて通行人が見たら何事かと思うよな。
教えられた場所に着くと、乾かすために寄っていってくださいと誘われるのだが、ここは出雲大社の近くではあっても神社の敷地ではなく建つ旅籠も普通である。
不思議に思いながらも寒かったのでおじゃますると、仲居さんが火を起こしてくれた囲炉裏を囲むことにした。
「ふぅー、あったかい。ところでここ旅籠ですよね?」
「ええ、わたくしは巫女でも厳島神社の巫女ですから。ここへは私用で泊まっているだけです」
確かに朱良さんは宿泊施設と言っただけで神社内だとは言ってなかったけど、この辺にいたら出雲大社の関係者だと思うし、宿泊施設と聞いたら巫女さんがいっぱいいると思うよな。
「なんだ。私、大社の巫女さんかと思って勘違いしてました。隼人もそう思ったから聞いたんでしょ?」
「う、うん。そうだよ穂見月」
パチパチ鳴る薪にしばらく当たっていると、明るくなってきた障子の向こうを覗き込んだ堀田先輩が言う。
「雨、止んだみたいですね教官」
「そうだな。まだ完全に乾いてないが、出発が遅かったからそろそろ行かないと」
俺たちは、朱良さんと仲居さんにお礼をいうと出発するのであった。
そして急ぎお祈りをすると、月山に戻ることにした。
翌日、寺本さんに呼ばれ俺たちは保管庫について行く。そして、加工道具が並ぶ広間を抜け、建物の端にある事務所へ入ると寺本さんは扉を閉めた。
「何かありましたか?」
堀田先輩が尋ねる。
「山中から急いでいるとは聞いている。だから、親方にも最優先でと頼んでおいた。だが、あそこが大工房で職人も多く分業で進められるとはいってもだ、限界はある。一週間は必要だ」
本来なら倍の時間は欲しいところで、これでもかなり無理を言っているということだ。
「わかりました。それで僕たち山中教官から何も指示がないのですが、お手伝いできることないですかね?」
堀田先輩が言うように、山中教官は忙しいのか昨日戻ってからというもの顔を見せない。
「いい心構えだが、頼めるような仕事はここにはないな」
寺本さんが心構えを褒めてくれてるのに、松下先輩は仕事がないと聞くと早速だ。
「じゃあ、温泉にでも行きましょうよ」
ぽかんとする寺本さんに松下先輩はさらに続ける。
「この辺には、たくさんあるんでしょ? あ、そうそう。私の二輪車、三輪車に変えてもらえます? ひとり誘いたい人がいるんで」
「ああ、分かったよ……変わった子だな」
山中教官には寺本さんから伝えてくれるということで、二輪車、三輪車の準備をしてもらうと出かけることにした。
ちなみに、松下先輩が誘いたかった人とは朱良さんだったらしく旅籠で乗せてから温泉に向うと言うのだけど、約束してないのに会えるのだろうか。
しかし旅籠につくと、まるで俺たちが来ることが分かっていたみたい朱良さんは誘いに乗ってきて、お勧めの場所まで教えてくれる。
「少し戻る形になりますが、
これを聞き、考えるまでもなく決まるのであった。
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