第27話 穂見月の決意


 昨日は隼人君に怪我をさせてしまった。

 それは、回復方法の問題ではなかったのかも知れない。でも私の働きが悪いことは事実なわけで、後衛だからといって許されるものではなかった。


「松下先輩、今平気ですか?」

 私は、松下先輩が一人になっているところを見計らって声をかける。

「うん、平気だけど何かあった?」

 いつもは進んで声をかけることなどしないのに、めったに会わない中庭で話しかけたものだから待っていたのだと気づかれてしまう。いやそれだけじゃなく、表情を見れば分かってしまうのだろう。

「そうだ、私の部屋に来なよ。相方は優秀なので、三年生と一緒に出動してしまったからさ」

 言われるままついて行き、部屋を訪れた。

「まあ、座ってよ」

 相方さんの席に座らされると、

「ちょっと待ってね」

と、どこにしまってあったのだろうか、お団子が出てくる。

「夜に食べようと思って、隠しておいたんだけどもういいや。食べちゃお」

 松下先輩はそう言ってお茶の用意をしてくれるのだけど、部屋には竹を切って作った花生けがありすすきが入れてあるので、お月見のための団子だったらしい。気を遣って出してくれたお団子は、たぶん相方さんの分……だよね。いいかな? 心配になってしまう。

「それで話は何かな?」

 私は聞かれると、前置きもなしに話を始めてしまった。


「前からも思っていたんですが、この前の盗賊との戦いで思い知らされました。松下先輩は私と同じで水属性が高いので、回復役の経験もあるんですよね?」

「うん、一年の時は回復役をやることの方が多かったかも」

「それでなんですが、私のことも長三郎君のように鍛えていただけないでしょうか? 強くなれないかもしれませんが、自分の力量を知るだけでも意味があると思うんです」

「なるほどね。教えるからには強くなりたいと思って欲しいけど、初めから向いているのかと自分の能力に対して疑問を抱いてしまったのだから、そう単純でもないのは分かるよ。それでもやるしかないから来たんだよね。いいよ、やってみよ」

 はっきりしない私に、なよなよしていると怒るのではないかと恐れてもいたのだけど、これまでの戦いでこぼしていた愚痴のことも含めて責められることはなかった。


 こうして秘密の訓練が始まる。それは、たとえ見る者がいないとしてもくじける事ができない理由があるものであった。


             ――――――

「お爺さん! どうしてあんなことを隼人君に言うの!?」

 私が怒っているにも関わらず、お爺さんは意に介さないように聞き返す。

「穂見月、お前どこから聞いていたんだ?」

「どこからって、私と早苗がここに預けられているって話とお母さんが殉職した話よ。それだけでも嫌だけど、警察を恨んでいるとか、私を守れとか、何よあれは」

「何よって、そのままだ。隼人君は守ると約束してくれたが、もし彼が断ったり迷ったりしたらお前を守ってくれる者がいなくなってしまうから、意思とは関係なくやってもらうしかないと考えたんだ。秘密を知れば守るしかなくなるだろうと思い、遺跡の力の話をしたんだよ」

「それじゃあ、利用しようってことなの?」

「悪く言えばそういうことだ。俺はもう、道世のようにお前と早苗をなくしたくない。父である盛文さんは、道世が亡くなってから心が悲しみに囚われ死の真実を探すことばかり考えてしまっている。隼人君には申し訳ないが、すべては俺が悪い。ただそれだけだ。もう、この話は終わりだ」

             ――――――


 聞こえてくる話から、お母さんの死が不自然なんだなと感じてはいた。お父さんが来てくれた時はうれしかったけど、昔とは違うと理解していた。当たり前だけど、そんなことを妹に相談することはできない。私は苦しんできたのだと思う。

 でも、それでも、隼人君が犠牲になるのは間違っている。だから私は、隼人君を利用したりなんかしない。『守る』と言ってくれた人と共に戦う道を選ぶと決めたのだから、くじける訳にはいかないのだ。

 お母さんは私と違って立派だった。そんなお母さんは、私の戦う動機がそれであってもいいと言ってくれるだろうか?

 秋風に当たりながら、僅かな時間を集めて練習に励むのであった。

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